Pto6(ぴーとろっく)

Pto6(ぴーとろっく)

どうもPto6(ぴーとろっく)です。

今回は、先日発売されたCreepy Nuts待望の1stアルバム【クリープ・ショー】について書きたいと思います。

キャリア初のフルアルバムを、いきなりメジャーレーベルからリリースしたHIPHOPアーティストが、これまで一体どれくらいいたでしょう。今やシーンの重要なアイコンとまでなった彼らが繰り出すこの注目作について、感じたことを書いていきたいと思います。

【クリープ・ショー】
クリープショウ 

<収録曲>
1. 手練手管
2. ぬえの鳴く夜は
3. 助演男優賞
4. 紙様
5. Stray Dogs
6. 新・合法的トビ方ノススメ
7. 俺から退屈を奪わないでくれ
8. かいこ
9. トレンチコートマフィア
10. だがそれでいい
11. 月に遠吠え
12. スポットライト


“俺ら怪しいモンじゃござぁせん まずはこじ開けるそのかたく閉じたドア”

そんなどこか他人行儀なヴァースから幕を開ける本アルバム。これまでの人気曲を漏れなく収録し、キャッチーでバラエティに富む楽曲群を取り揃え、自分たちの“らしさ”も余すことなく発揮する。そんな求められるポイントがそつなく押さえられた、メジャーアーティストとしてなんて“優等生”なアルバムなんだろうか。これが、私が本作に対して最初に抱いた率直な印象でした。

それと同時に、一抹の寂しさを胸に抱いたことも告白せねばなりません。冒頭のヴァースの他にも、明らかに彼らとHIPHOPに対して馴染みの浅い“シーンの外の人たち”に向けて歌っているという印象を、私は強く受けてしまったのです。

もちろん、これまでの彼らの活動、フェスやライブ、メディアにおける言動を振り返ってみても、彼らが自分たちの愛するHIPHOPを世に広めるため、自らアウェイの環境に身を置き、シーンの矢面に立ち“外”向けの挑戦をし続けてきたことは重々知っています。また私も含めた彼らのファンは、そんな一般層との“橋渡し役”を彼らに期待していたのも事実です。

それにも関わらず、私は初めてこのアルバムを聴いたとき、つまりはメジャーアーティストとして“とても様になっている”Creepy Nutsを実感してしまったとき、なんだか二人がとても遠い存在になってしまったような悲しい感情にかられてしまったのです。

しかしそんな寂寞の念を抱きながらも、その耳馴染みよい音楽に手を引かれ何度も繰り返し本作を聴き返しているうちに、そこで歌われているリリックの意味が捉えられるようになるにつれ、私の中でこのアルバムに対する印象は少しずつ、そして確実に変化していきました。

そして5周ばかりした頃でしょうか、歌詞カード片手にリリックを追いながら最後までアルバムを聴き終えた時、私はこのアルバムの凄さを、そこに込められていた彼らの想いを、これまで全く理解出来ていなかったということを痛感させられました。

このアルバムは、単に過去の人気曲を詰め込み、ブームの勢いのままリリースされたような生半可なアルバムではありません。彼らがこれまで培ったもの、自分たちを構成する要素を余すことなく盛り込み、すべてをさらけ出す赤裸々な“自己紹介”をした上で、1stアルバムながらに早々とこれまでの自分たちからの脱却を宣言する、なんとも意欲的かつ挑戦的な、彼らが持ちうる全てをぶつけられた渾身のアルバムだったのです。

それゆえに、このアルバムでは現時点での集大成として、あらゆる面において彼らの良さが存分に発揮されているように思います。
 

R-指定のラップ


まず目に付くのはR-指定作詞家としての開花です。彼は“所謂ラッパー”としてではなく、表現者として噺家(はなしか)にも似た進化の道を突き進んでいるような印象を受けます。

トンチの利いた上手いこと、面白いことを言葉巧みに語っていく。思えばMCバトル時代の終盤にも見られていた“フリとオチのあるラップ”に、更に一層の磨きをかけているように感じられます。参考までに、本アルバムの中で私が特に気に入っているリリックについて、ここでいくつか紹介してみたいと思います。


“親のすね(スネア)齧ってHi はっと(ハイハット)気づけば
 食う寝るがベース(ベース)のドラ息子(ドラム)”

【ぬえの鳴く夜】におけるリリックです。前半にでてくる楽器一つも弾けないくせに ほらしむならあるちゃっかり”というリリックに呼応するように、自らの言葉の中にグルーヴとリズムを司る楽器達を巧みに登場させている一節です。インタビューでも語っていましたが、聴き手に気づかせる上で簡単すぎず、しかし難しすぎずのバランスが実に見事だなと思います。


“No、グッチ ヒデー男(野口英世)と言われても仕方ない
 一応(一葉)それなりに頑張っちゃいるが
 こりゃちょっとした行き違い(諭吉)ゆうてねぇ
 昔からコレには縁()が無いゆうてねぇ”

【紙様】における一節です。タイトルの通り全編通してお金について歌われている楽曲ですが、そのフックで日本の紙幣に描かれている偉人達を見事に全員登場させています。これも聴き手に気づかせる上での歌い方の工夫が手厚いなと感じますよね。そして最後の大サビでは“縁()がない”と大オチまでつけている始末。実にRらしいニクい言葉遊びですよね。


“見せ場はこん位、君の分(木暮公延)”

ついでに過去曲ではありますが、本作にも収録されいる【助演男優賞】における有名な一節についても。少年漫画の金字塔『スラムダンク』における名脇役木暮公延』の名シーンについて語られているラインです。漫画ファンなら誰もが思い浮かべることができる名シーンですが、そのシーンの描写のみに留まらず、キャラの名前までをもさり気なく浮き上がらせているのが実に見事ですよね。


座布団一枚級の上手い歌い回し。彼が思い描いている理想のラッパー像は、おそらく話芸に富んだ落語家のような表現者なのでしょう。もちろん、それを音の上でかっこよく響かせるためには、話の組み立てや表現の巧みさにプラスして、自由自在にラップを操る絶対的なスキルが必要不可欠となります。それゆえに、スキルに絶対の自信をもつR-指定だからこそ目指せる姿だと言えるのかもしれません。

そしてそれが、彼だけの唯一無二の武器に、他の誰もが持たない個性にまで昇華することを、個人的にはとても期待しています。聴き応えのある彼ならではの巧みなラップを、唸るようなラインを、これからも心待ちにしたいと思います。
   
DJ松永のビート


DJ松永のビートは、前述したR-指定のラップを抜群の相性で引き立てています。本アルバムではロックテイストの生音が多様されている印象を受けますが、今の彼にはそのテイストが新鮮に響いたのだとインタビューでは語られていました。近年におけるフェス対バンライブで共演した他アーティストからの刺激も多分にあるのでしょうね。また、もしかしたらメジャーレーベルに所属したことにより、これまで以上にサンプリングの制約が厳しくなったことも影響しているのかもしれません。(メジャーデビューEPでは、そのことが原因で販売延期となった痛い経験もしていますしね。)

そんなDJ松永のビートの特徴は数多くありますが、アルバムとして今回曲を並べた時に気がついたことは、ほとんどの曲においてHIPHOP曲では珍しい“Cメロ”があるということでした。楽曲にCメロを挿入することにより、最後の大サビを効果的に響かせ、曲に起(1番)、承(2番)、転(Cメロ)、結(大サビ)をつけやすくしています。このビート構成は、前述したR-指定のラップ構成とも親和性が高く、話にオチをつける上で効果的な役割を果たしていると思います。

また、Creepy NutsはDJとMCのユニットなので至極当然かもしれませんが、どの楽曲においても松永のビートにRのラップが乗っているというのは、聴き手として求めているものが確実に返ってくる安定感を感じますよね。どこか古き良き時代の日本歌謡の香りが漂いつつも、コミカル聴き応えのある、展開に優れた松永のビート。他ジャンルの音楽と並べられる機会の多いメジャーの土俵においても、決してひけをとらない輝きを放っているのではないでしょうか。

アルバム構成

上記の通り、R-指定もDJ松永もそれぞれ自分たちの魅力を遺憾なく発揮していますが、私が本アルバムを聴いて最も感銘を受けたのはそのアルバム構成でした。各曲で語られる要素の網羅性、そしてその楽曲を並べる順序性に趣向が凝らされた、二人の強いこだわりを感じられる構成なのです。

冒頭曲【手練手管】では、自分たちがHIPHOPに魅せられた経験を語りながら、自分達のスキルで“外”の人達をもHIPHOPに取り込んでいきたいという野心が歌われています。導入曲に相応しいキャッチーでインパクトのある楽曲ですよね。つづくリード曲【ぬえの鳴く夜】では、巧みな比喩表現を駆使しながらHIPHOPという音楽の歪さと面白さを見事に表現しています。韻の擬人的な表現からはじまるCメロが聴き応え十分です。

つづく【助演男優賞】では、主役を妬む脇役に甘んじてきた自分たちの人生を卑下してみせながらも、いつかは主役を食ってやるという強い意気込みをコミカルに語っています。この曲に内包されている自虐性に隠された社会風刺の側面は、以降の楽曲でもナチュラルに継承されていきます。【紙様】ではその日暮らしに陥った経験もあるRが、金に翻弄される己を含めた人間の滑稽さ、愚かさを軽やかに歌い上げています。そしてつづく【Stray Dogs】では、そんな大切なお金を、自らの欲望のままに散財してしまう、自堕落で卑しい自分をなお一層赤裸々に語っていくのです。(余談ですが、本楽曲はCreepy Nutsでは珍しい英語タイトルがついた曲ですよね。楽曲テイストやテーマが他楽曲と違うのでもしかしたら意図的なのかもしれません。)

しかしそんなRも、音楽と出会いのめり込んだことで、まっとうな手段で欲望を発散できる快感に目覚めていきます。そのことを高らかに歌い上げているのは、ご存じ【新・合法的トビ方ノススメ】です。今回の収録ヴァージョンでは、ビートがロックテイストにアレンジされていて、とても新鮮に響きますよね。

つづく【俺から退屈を奪わないでくれ】では、テクノロジーが進歩し、どんどんと生活が便利になる一方で、大事なものがそぎ落とされていく現代の空しさを鮮やかに描いています。つづく【かいこ】は、そんなスピーディな時代の流れについていけない自分たちを、自嘲的に、そしてどこか誇らしげに歌い上げた楽曲です。タイトルの“かいこ”から浮かぶ多層的なイメージ(回顧、解雇、懐古、蚕)が楽曲と見事にマッチしていますよね。それに加え、“まだ味の残ってるガム”という象徴的な表現を、本楽曲のきっかけとなったロッテキシリトールガムとのタイアップ企画に絡めて歌っているところからも、Rの器用さが垣間見れます。

【かいこ】


そんな時代に対する懐疑心、理想と現実とのギャップから抱く劣等感は、【トレンチコートマフィア】の中で、暴走寸前にまでふくれあがっていきます。(過去DJ松永のソロアルバムに収録されたCreepy Nutsの原点的な楽曲が、こうしてアルバムに再収録されるのは感慨深いですよね。)しかしつづく【だがそれでいい】では、そんな昂った感情に優しく水をかけ熱を冷ますように、世の中に置いてけぼりにされている、ダサくて、かっこ悪くて、イタい、そんなすべての人達を、“それでいい”んだと、力強く肯定してくれています。

【だがそれでいい】


つづく終盤曲【月に遠吠え】では、そんなのら犬(Stray Dog)同然だった自分がたどり着いた安息の地、“梅田サイファー”での暖かい想い出をしみじみと振り返っています。ハジかれ者たちが集まって楽しく夜を越した自分自身の原点。Rは、自分がいつでも帰れる居場所があるということを改めて再認識し、そのことのありがたみを噛みしめます。

そして、そんな大切な仲間達の存在に背中を押されるように、Rは今後の人生における大きな決意を言葉にします。ラスト曲【スポットライト】で、Rはこれまでの斜に構えた言い訳じみた予防線を張った生き方にケリをつけ、自分に対して胸を張って生きていくことを誓うのです。自分にしか立てない自分だけステージで、“主役”として誇らしく生きていく。Rはそう、高らかに宣言してみせるのです。

私はこの曲を初めて聴いたとき、“ベンチウォーマーだった自分も、実力をつけた今ではNO.1だと言えるぜ”的な楽曲だと勝手に勘違いしていました。しかし、歌詞を追ってよくよく聴いてみるとそうではなかったんですね。“今は決して替えの利かない存在”になり、スポットライトを浴びるようになったけど、今思うと、あのイケてなかった頃から、実は自分だけの“スポットライト”はいつだって向けられていたんだ、という気づきの歌だったのです。

誰から笑われようが、馬鹿にされようが、俺は俺として生きていく。だってスポットライトは常に自分だけを照らしているのだから。これまで必要以上にネガティブだったR-指定が未来に進むために自ら導き出したこの結論に、私はなんだか涙が出そうなくらい感動してしまいました。少年が大人になった瞬間に立ち会えたような嬉しさが、聴くたび込み上げてきてしまいます。

【スポットライト】

このように本アルバムは、二人を語る上で欠かせない要素を、歩んできたこれまでの人生を、現代に投げかけたい嘆きを、大切な仲間たちへの愛情を、余すことなく盛り込みながらも、最後には成長により導き出した気づきと決意へと収斂させている素晴らしい作品なのです。

そして、これぞCreepy Nutsだと、一枚のアルバムで見事に言い切っていますよね。それと同時に、1stアルバムながらにこれまでの自分たちに別れを告げ、Creepy Nuts第一章の“完”を潔く宣言しています。こんな1stアルバムを聴いてしまったら、第二章の始まりにあたる次回作が今から楽しみでなりませんよね。

アルバム制作前までは、オール新曲による【スポットライト】から始まるアルバムの構想もあったといいますが、結果このような形になってよかったのではと私は思っています。一段飛ばしに進化するのではなく、一歩一歩確実に歩を進めるほうが、なんだか彼ららしいではありませんか。

攻撃的な楽曲から、メロディに富んだ曲、卑屈な楽曲から、ボースト曲まで。まさに彼らの良さがバランス良く盛り込まれた本作は、音楽面でみても聴き応え十分です。是非とも多くの人に聴いていただき、彼らのことをもっと知って欲しいなと思います。

それでは、今回はこのへんで。






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最終更新日2018-08-16
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Comments 3

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度々コメントしている者です。
まず修正点を申し上げさせていただきます。
古暮公延→木暮公延
Stray Dogs→本楽曲はCreepy Nuts初となる英語タイトルがついた曲ですよね。←正確には違います。初の英語タイトルのついた楽曲はBE MY BABYです。
Creepy Nuts始まりの曲が、トレンチコートマフィア←これも正確には違います。この名義で世に出たキャリア初の楽曲は「シラフで酔狂」です。
後、DJ松永のビートとありますが、正式にはトラックではないでしょうか?

Stray Dogsはお察しの通り、恐らく意図的です。この楽曲のもととなっているのはRがコッペパンで活動していた当時、中学のツレのLARDとつくった夜のお店が題材の曲を超カッコいいフローでラップするというものを松永がどうしてもCreepy Nutsでやりたいという願望からです。
よく聴くと夜のお店の話というオチの為にタイトルから英語にすることで、クールな楽曲であるという印象をリスナーに与える壮大な前フリなのでしょう。この点は彼らと親交が深い岡崎体育のnatural lipsと通ずるところがあると思います。
たしかに近年のRは竹原ピストルの影響もあり、ダブルミーニングに傾倒しているところは少なからずあります。その本当の意味での言葉遊びこそCreepy Nutsの楽曲の真骨頂であると個人的には感じます。

2018/04/29 (Sun) 01:08 | EDIT | REPLY |   
Pto6(ぴーとろっく)  
Re: タイトルなし

修正点のご指摘ありがとうございます。非常にたすかります^^

> 古暮公延→木暮公延

⇒完全なる記載ミスですね。お恥ずかしい。。修正させていただきます。

> Stray Dogs→本楽曲はCreepy Nuts初となる英語タイトルがついた曲ですよね。←正確には違います。初の英語タイトルのついた楽曲はBE MY BABYです。

⇒正規にリリースされているという意味で書いていましたが、確かに“初”では語弊があるので修正させていただきますね。

> Creepy Nuts始まりの曲が、トレンチコートマフィア←これも正確には違います。この名義で世に出たキャリア初の楽曲は「シラフで酔狂」です。

⇒これも初めて作った曲という意味ではなく、二人の存在を広く知らしめた原点という意味で“始まりの曲”書かせてもらいましたがこれも、誤解を招かぬようそう書き替えさせてもらいます。

> 後、DJ松永のビートとありますが、正式にはトラックではないでしょうか?

⇒これについては、現代ではビートとトラックがほぼ同義で使われている(その場によって恣意的に使い分けられている)風潮を踏まえ、また私が個人的にそちらの呼び方を好むという理由で今のままでご容赦ください^^;(正確に言うとおっしゃるとおり、ビートと言えばトラックの中のリズムの部分ですね。)

2018/04/29 (Sun) 07:10 | EDIT | REPLY |   
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ストレイドッグスに関しては確かR-指定と親友のラードと昔作った曲だったと思います。(どこかで言っていたのをうろ覚えですが覚えています)
この曲に関しては松永とRが異様に気に入っていてそこでファーストに入れたから一風変わったのかなと。

2018/11/09 (Fri) 00:21 | EDIT | REPLY |   

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