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日本の名盤・基本の定番㉔(Think Good by OMSB)

どうもPto6(ぴーとろっく)です。

今回は、昨年発売された名盤をご紹介します。様々なメディアや有識者によって2015年の年間ベストアルバムとして挙げられていた作品、OMSBの2ndアルバム【Think Good】です。

それでは、いってみましょう。

【Think Good】
Think Good

<収録曲>
1. 宜候
2. ActNBaby
3. Storm
4. Gami Holla Bullshit
5. Shaolin Training Day (Interlude)
6. 黒帯 (Black Belt Remix)
7. Goin' Crazy
8. Touch The Sky
9. Ride Or Die
10. Scream
11. Words from Hi'Spec
12. Memento Mori
13. Think Good
14. Zone 8
15. Orange Way
16. Lose Myself
17. World Tour

発売以来、多くの賛辞を浴びていた本作。前述の通り、昨年末には年間ベスト作品として多方面から選出され、名実ともに2015年を代表する作品となりました。実は私も、その高い評価を聞きつけ、発売してすぐの段階で購入し聴き続けていたのですが、これまでどうしてもブログで本作について書くことができませんでした

その理由は単純で、本作のもつ圧倒的噛みごたえを前に、私が全くもって咀嚼しきれなかった為です。月並みな表現として、“スルメアルバム”という表現は多く使われていますが、本作はその表現の趣旨である“噛めば噛むほど味が出る”というような生半可なものではなく、まさに本物の固いスルメのように、“噛めども噛めども噛みきれない”という意味でのスルメアルバムだと思います。

とにかく何度聴いてもその全貌が掴みきることができません。私が口に含めたのはスルメにおける単なるゲソの一部分にも関わらず、それすらも噛みきれないのです。何度も何度も聴いて咀嚼する内に、いつの間にか半年以上の時間が過ぎていました。凄い作品だということは、一聴しただけでも十二分に解ります。しかし、その“凄い”に続く感想がなかなか出てこないのです。この凄さはどうやって表現したらいいものか、これまで言葉が全く出てきませんでした。

しかしこの度、やっとそのゲソの一部を噛み切り、飲み込めた感触を得たので、こうして記事を書かせてもらいます。もちろん、作品をご紹介する上では、紛いなりにも全体を飲み込んだ後に書くことが好ましいことは重々承知の上ですが、本作の魅力を語る上では、“まだ全貌を掴みきれていない状態”で書くということも、ある意味プラスに働くのではないかと思ったので、それを信じ筆を握らせてもらいます。

まず、このアルバムがどんな作品なのかは、本作のリード曲となっている下記の楽曲【黒帯】を聴いて頂ければ簡単なイメージは掴めると思います。

【黒帯 (Black Belt Remix)】


“塵は積もり山と成りけり 日々精進 落とす大和撫子”

本作で、“こんなの聴いたこと無い”という作品を目指したと語っていたOMSBですが、この楽曲を一聴しただけでも、そんな感想を吐露してしまうだけの、新鮮な驚きを感じることができると思います。サウンドの鳴り方、リズムの作り方、ラップの乗せ方、どこをとっても随所に新しさを見出すことができると思います。奇天烈だが心地良い不穏なループビートにまず耳が奪われ、次に、そこに乗るOMSBのラップ、日本語のこれまでにない音としての響きに心酔しきってしまいます。YouTubeに公式にアップされた本楽曲のMVの記事欄には、本楽曲のリリックが全文公開されていますので、是非一度そちらも見てみて下さい。言語的情報と、音楽的情報のギャップに右脳と左脳の回路が心地よい混乱をきたすという新鮮な体験ができると思います。

もともと「DJになりたい」と思いHIPHOPを始めたOMSBにとっての最大の武器は、やはりそのビートです。自身でも、自分の中で一番自信があるのはビートだと語っており、海外のアーティストにも決して負けていないと自負している程です。他の誰にも作れない、替えの効かないものを目指し作られたそれぞれのビートは、音色、リズム、質感、その全てから、“アハ体験”とも言える新しい刺激と興奮を聴者に与えてくれます。

このアルバムにおいても全編通してビートの素晴らしさが際立っており、3周目くらいまでは正直リリックにまで耳がいきません。安定したラップの音をむしろバックトラックとして耳が捉え、変化の激しいバラエティに富むビートの方に全神経が集中してしまいます。リリックやラップについては、耳がビートに慣れてきた4周目あたりからやっと徐々に耳に入ってくるような印象を持ちました。

このビートについては、“前衛的”と表現してしまえばそれまでなのですが、ただ単に奇抜さを狙ったものでなく、そこには確かな心地よさが具備されているところが素晴らしい点だと思います。初めて本作を聴いた時は、イギリスの人気ロックバンドRadioheadの新譜を聴いた時と同じような期待感と高揚感に包まれたことを今でも覚えています。その前衛さと心地良さのバランスの良い共存は、ただ奇をてらっただけの楽曲では持ち得ない、新たなスタンダードを打ち立て提示するかのような、確かな説得力を内包しています。

RZAやEL-Pなどの偉大なる先人達のトラックからイズムを掴みとり、それを自分が出会った刺激と鳴らしたい音で、自分自身の方法により表現する。彼が創りだすそんなビートには、絶妙なサンプリングが多々用いられており、随所にチャレンジングな要素も含まれています。中でも私は、人の声を切り貼りした音でつくられた【Goin' Crazy】の実験的且つダイナミックなビートに、度肝を抜かれてしまいました。また、そんなビートがある一方で、片やセンシティブなピアノが響く繊細なトラックがあったりと、ビートとしての表現方法の振れ幅が大きいことにも驚いてしまいます。

【ActNBaby feat. jjj】


“韻の中のメタファー”

さて、上記でOMSBの一番の武器であるビートについて語ってきましたが、本作においては、彼のラップ、リリックについても是非注目して欲しいと思います。本作において彼は、ラップにおいてもこれまでにないチャレンジングな姿勢を見せているのです。

これまでのOMSBは、自身も認めていたように、楽曲全体の音としての構成に重きを置く為、ラップにおいてはフロウを最優先にしていました。ビートメイカーとしての強い拘りにより、ラップも曲を構成する単なる音の一つとして捉えられていたのです。「打楽器みたいな感じでラップを捉えていた。フロウだけ頑張って、リリックはそれっぽいことを言っとこうと思っていた」と、以前インタビューでは語っていました。確かに、ライムの置き所、抑揚の付け方など、ビートを最適に響かせる為の言葉の配置が、OMSBの楽曲では随所に見られます。

しかし、ある時からOMSBはリリックの重要性に気付いたといいます。そしてそれ以来、言葉の裏に意味を込めたり、誰もしていない言い回しを意識するようになったと語っています。本作のリリックにおいては、更にその傾向を強めており、収録曲の中には、自身の内面について深く語っている楽曲(【Think Good】をはじめとするアルバム後半の楽曲)もあります。そのような楽曲の存在が、本作に音としてだけでは決して与えられない深みを与えていると思います。そして、そのことが、この作品を“HIPHOP”として響かせる上で、重要な役割を担っていると私は思います。

【OMSB INTERVIEW】


本アルバムは、インタールードやSKITの効果的な配置により、シームレスに一枚通して聴けるアルバムになっています。本人曰く、「考えさせる部分ばかりを作りたくない」とのことで、音として楽しめる部分と、リリックの深さを味わう部分が良い塩梅で構成されています。そして、「不意に入ってきた言葉が刺さって、その人の為になればいいのかな」と語っていたOMSBの思惑通り、音と言葉が多くの感動と興奮を与えてくれます。これを“中毒性”と呼ばずに、なんと呼ぶのでしょうか。

そして、昨今の曲数が少ないフルアルバムに警鐘を鳴らすため、ボリュームにも拘ったと語っていた通り、本作は全17曲ととてもボリューミーです。その為、冒頭でも書きましたが、私はまだまだその全体における一部を飲み込んだだけに過ぎません。しかし、これだけ丁寧に作りこまれた、濃度が濃い作品になると、私は全幅の信頼をおいて聴き続けることができます。時間をかけて咀嚼したら、その分に見合うだけの新しい発見をもたらしてくれるのです。この作品は十二分に探索の余地が設けられた作品です。裏切られる心配はありません。安心して、ゆっくりと深くまで聴いていこうではありませんか。

この大きくて固いスルメを全部食べきった先には、一体どんな世界があるのでしょうか。私はそれを見るのが楽しみでなりません。その景色をいつか見るため、私はこれからも本作を聴き続けていこうと思っています。

では、今回はこのへんで。



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2 Comments

新潟のオタクビーボーイ  

食わず嫌いでomsb聞いていませんでしたが、このブログをきっかけに聞いてみたら、ヤバかったです。
教えてくださり、ありがとうございます!

2016/02/20 (Sat) 15:50 | EDIT | REPLY |   

Pto6  

Re: タイトルなし

> 食わず嫌いでomsb聞いていませんでしたが、このブログをきっかけに聞いてみたら、ヤバかったです。
> 教えてくださり、ありがとうございます!

新潟のオタクビーボーイさん
いつもありがとうございます!そう言っていただけるとブログ書き冥利に尽きます^^私もまだまだ聴いたこと無いアーティストも多いですので、引き続きいろいろ聴いていこうと思っています!

2016/02/21 (Sun) 11:08 | EDIT | REPLY |   

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