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このDVDが良い雰囲気⑩(KING OF KINGS -FINAL UMB-)

どうもPto6(ぴーとろっく)です。

今回は、9sariグループ主催のMCバトル大会、UMB改め【KING OF KINGS】のDVDをご紹介しようと思います。漢a.k.a.GAMIが「日本一のMCを決めるに相応しい大会だった」と後に自信を持って語っていたこの大会について、改めて振り返っていきましょう。

【KING OF KINGS -FINAL UMB-】
KOKDVD

<出場MC>
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・高校生RAP選手権枠 : MC☆ニガリ
・ENTA DA STAGE枠 : NONKY
・戦極MCBATTLE枠 : 呂布カルマ
・SCHOOL OF RAP枠 : LICK-G
・THE罵倒MCBATTLE枠 : 押忍マン
・UMB東京予選A枠:サイプレス上野
・UMB大阪予選A枠:HI-KINGa.k.aTAKASE
・UMB東北予選枠:JAG-ME
・UMB北陸予選枠:Jony the sonata
・UMB東海予選枠:NAGION
・UMB北関東予選枠:崇勲
・UMB北海道予選枠:KAI
・UMB九州予選枠:GADORO
・UMB東京予選B枠:仙人掌
・UMB大阪予選B枠:CIMA
・UMB中国・四国予選枠:FEIDA-WAN
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大会のオリジナル要素

まずは、DVDを見て改めて感じたKING OF KINGS(KOK)という大会や、このDVDについての特徴について書いていきたいと思います。

■審査員ジャッジ制度
観客判定で勝敗を決める近年のMCバトル大会の風潮に、敢えて警鐘を鳴らし取り入れられたこのルールは、KOKの大きな特徴のひとつでした。過去に“ラッパーがラッパーを審査する不健全さ”が謳われ取り入れられた“観客判定制度”でしたが、昨今のMCバトルブームにより、観客、MC共にシーン人口が急増した中では、改めてプロの目による公平なジャッジを提示することが意味を持つのではないかという、時代の流れを汲んだ問題提起だったように思います。

私は、このジャッジシステムが他の大会との一番の差別化ポイントだったこともあり、とても新鮮に見ることができました。MC達も“ただ会場の観客を盛り上げればいい”のではないので、他の大会とは違う戦い方を心がけているような印象を受けました。例えば、呂布カルマで言えば、一回戦での思わぬ苦戦からか、バトルを追うごとに“ライムを入れる”ように気にかけて戦っていたような印象を受けました。そういったMC達の普段とは違った駆け引きが見られた点が実に面白かったです。

そして審査後は、錚々たる審査員(ZEEBRA、R-指定、KEN THE 390、AKLO、漢a.k.a.GAMI)からのコメントや点数開示もあるので、ジャッジについての一定以上の納得感は得られました。しかし、やはりそこは人間がジャッジする以上、少しばかりの私意が入っているのかもしれないと感じる場面はいくつかありました(ある審査員が特定のMCに対し大会通じて一回も票を入れなかったところ等)。そういう意味では、観客1票、審査員5票のバランスは、今後少し考え直してみてもいいかもしれないと個人的には感じました。例えば観客1票、審査員で1票(審査員5名の票が多い方に1票)とか。ただそうするとKOKの最大の特徴が弱まるので一長一短ですね。また、大会としてのテンポも、審査員コメント等が入ることで会場で見た際には多少悪く感じそうですので、そういった点についても次回大会以降、工夫が取り入れられるのではないかと期待しています。

関連記事【UMB2015動向】はこちら

■B.G.S(BEAT GET SYSTEM)
バトル勝者がそのバトルビートを獲得することができるというオリジナルルールです。その為、各バトルにはそれぞれビートメイカー達の名前が付けられていました(例:Libroステージ)。このシステムにより、全くの新しいビートばかりが出てきて、どちらのMCも初めて聴くことになる為、完全にイーブンな状態から純粋な即興性(ビートアプローチ)が問われることになります。“フリースタイルのバトル”としては、ある意味これが正しい形なのかもしれませんね。また、ビートをもらえるということがモチベーションにもなりそうです。先日、押忍マンが獲得したビートで音源を制作し発表していましたが、そのようにバトル後の話題も作れることもMCにとっては大きな利点だと思います。

ただ、やはり初めてのビートばかりなので、MC達が無難なビートアプローチになりがちな印象を受けました(逆に言うと、そんな中、巧みなビートアプローチを見せた場合は会場が盛り上がります)。また、やっぱりクラシックビートが流れると会場もMCも高まるので、それがないのは少し寂しく感じました。既存のビートであれば、普段のDIGでいろんなビートを知っている人が有利になり、その知見の広さが武器になりますが、全てオリジナルビートになるとその武器は役に立ちません。それに加え、オリジナルビートでは、元ネタのリリックのサンプリングという、MCバトルの面白さのひとつができなくなるので、表現の幅という意味でも、MC達が少しやりづらそうには感じました。あとやはり、名勝負にはクラシックトラックが必要なのではないかと思ってしまいました。そういう意味では、このB.G.Sも一長一短かもしれませんね。

■大会の演出
オープニングの<剱伎衆かむゐ>による殺陣パフォーマンスや、巨大スクリーンを使った映像効果ラウンドガールたちのステージングなど、他大会との差別化という意味で大きな意志を感じました。日本一のMCを決める大会KING OF KINGSという冠を掲げる以上は、他大会にない豪華さ、特別感、一年に一度のお祭り感はあってもいいのではないかと個人的には思います。そして毎回ネタを変えることによって、大会のひとつの話題にもなりそうですよね。来年はどんなオープニングや演出があるか楽しみです。今後もテレビ放送が続くのであれば、変にアングラの空気感に拘り過ぎず、色んな挑戦をしてほしいなと思いました。

■DVD特典
このDVDには漢a.k.a.GAMI、DARTHREIDER、MASTERによる副音声と、D.O達による大会舞台裏レポートの特典が収録されていますが、それらがとても面白いです。副音声は所謂“水曜どうでしょう”スタイルで、出演陣がDVDを鑑賞しながら談笑します。時には映像そっちのけでの会話もあり、中には危ない空気の漂うアングラの会話や、意味深な音も入っており、冷や汗がでる場面もありました(笑)9sariステーションでの漢とダースのやりとりが好きな方は楽しめるのではないかと思います。是非ともDVDの恒例特典にして欲しいと思いました。また、D.OとMARIANによる舞台裏レポートも、MC達の緊張感やお祭り感が感じられる面白い内容になっているので必見です。緊迫感溢れるリハーサル現場にも、本番前のMC達にもD.Oはズカズカと切り込んでいきます。ユーモア満載、ボリューム感満載です!

印象に残ったバトル

さてここからは、精鋭16名によって争われたレベルの高いバトルの中から、私が特に印象に残ったバトルについて、簡単に感想を書いていきたいと思います。

【Lick-G vs 呂布カルマ】
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大会優勝候補筆頭と最年少出場者の対決。当初、Lick-Gへの観客の期待度はそこまで高くなかったのかもしれません。ワンバース目からスキルフルにラップを繰り出す彼に、会場は爆発的に盛り上がりました。優勝候補呂布カルマ相手に最高のバトルを見せ、戦いは二度の延長戦にもつれ込みます。最終的には、“もっと韻を踏め”というディスと、“じゃあなんで延長になってんだ”というアンサーに終始してしまったところが勝敗を分けたかないう印象を受けましたが、それでも間違いなく本戦一回戦でのベストバウトはこの試合で、その功績者はLick-Gだったのではないかと思います。本人も大会後に2015年のベストパフォーマンスができたとTwitterで満足さを覗わせていました。対する呂布カルマは、最後は地力と経験の差でねじ伏せました。彼だけにしか吐けない独特の言葉選びはやっぱり魅力的です。次は何を言うのか、と観客は彼の言葉を待ち望んでしまいます。

【崇勲 vs CIMA】
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B.G.S故に、MC達は初対面のビートに対し無難なアプローチをしてしまいがちと上記しましたが、このバトルでは、崇勲がそのビートアプローチの巧みさで会場を沸かせます。そういう意味では、B.G.Sならではの面白さが出たバトルと言えるのではないかと思います。対するCIMAもスキルフルにビートを乗りこなし、高次元なバトルになりました。そして、それ故に完全に好みが分かれる試合だったと思います。会場、審査員の判定も割れに割れていました。そして、そんな拮抗した戦いを制し、この試合に勝ったことで、崇勲は完全に会場の空気を掴み、その後の流れに乗ったように思います。

【呂布カルマ vs JAG-ME】
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この試合は、呂布カルマが相手に純粋な言葉の力比べで敗れるという珍しい試合でした。R-指定も解説で言っていましたが、JAG-MEは得意の“フロー”で交戦してくると思いきや、敢えて呂布カルマの土俵である“パンチライン”での戦いを仕向け、そこで相手を上回って見せたのが最高にカッコ良かったです。カルマも思わずバトル中に相手を認める発言をしてしまう程に追い込まれてしまいました。でも、素直に相手を認められる呂布カルマもカッコイイですよね。そのようにして大会一の優勝候補がここで散ることになりました。ちなみにJAG-MEは、いつの大会からか“優勝者以外には負けない法則”があると言われていましたがこの大会でもそうでしたね。大きな大会での優勝こそまだ無いですが、やはり魅力溢れるMCだと改めて再確認できました。

【崇勲 vs GADORO】
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MC正社員が2015年で一番印象に残ったバトルのひとつとして語っていた試合です。大会への熱量を乗せ、ライムマシーンと化したラップ巧者GADOROと、それを巧みに打ち返す試合巧者崇勲の対決が非常に面白いバトルです。なかなか勝敗が決まらず、延長が二回繰り返されました。お互いスタミナも消耗し、声を枯らしながらの戦いは、最終的には会場を味方につけた崇勲に軍配が上がりました。相手のライミングの粗を探しあて、そこに倍返しのアンサーを打ち返した崇勲の即興性が勝敗を決めたように思います。GADOROのラップスキル、崇勲の的確なアンサー、二人の会話の発展など、MCバトルの面白さが全部詰まったようなバトルだったと思います。

チャンピオン崇勲

sususu

この日の彼は神がかっていた。そのように多くの人が語っていた崇勲。改めてDVDで見返してみると、この日の崇勲は、決勝戦までの四試合それぞれで、異なる武器を用いて勝っているということに気が付きます。

一回戦のNONKY戦では、“ユーモア”という武器で試合を制します。相手が会場を沸かせた"タラバガニ”というワードを拾い、“松葉ガニ、毛ガニ”という言葉でそれの倍以上会場を沸かせ勝負を決めました。後日自身のブログでもこの試合は「どっちが笑わせるかの勝負」だったと語っています。

次に、二回戦のCIMA戦では、前述した通り“ビートアプローチ”という武器で相手を制しました。ここで勝ったことで完全に崇勲は流れに乗ります。更に次の、準決勝のGADORO戦では、“アンサー”という武器を用いて、テクニカルにジャブを繰り出してくる相手に対し、的確なカウンターで応戦しました。手数こそ相手には劣るものの、一打一打は確実に相手にダメージを与え、最後は会場を味方に付けました。

そして、決勝戦のJAG-ME戦。ここでは、“パンチライン”という武器で相手を仕留めました。“蝶のように舞い蜂のように指す 時計が処刑の時刻を指す”“どっちがドープかじゃないぜ どっちが貫いたかの話だ”など、強烈なパンチを次々に放ち、結局相手に一度も主導権を掴ませないまま、完全勝利ともいえる形で優勝を決めました。敗戦後のJAG-MEの表情が、その戦いの全てを言い表しているように思います。

このように、崇勲は各戦いで自身の持ちうるあらゆる要素を使い、“フリースタイラーとしての総合力”でこの大会を制したのです。R-指定がフリースタイルダンジョンにおける解説で「MCバトルはじゃんけんのようなものだ」と語っていましたが、まさにこの日の崇勲は、相手の手の形に合わせ、自身の繰り出す手を決するということができていたように思います。また、上記以外にも、つい応援したくなってしまう愛嬌のある彼の“キャラクター”や、これまであまり陽の目を浴びてこなかったラッパーとしての“背景”、そして何よりも多くの場数から培った“経験”が、この日の崇勲にMCバトルの神を宿らせた大きな要因ではないかと思います。

崇勲は見ていて本当にフリースタイルでラップをしているなと感じます。即興で、その場に相応しい言葉を繰り出しているのです。至極当たり前のことのようですが、最近のスキル至上主義の状況下においては、純粋な即興だけで勝ち上がるのは至難の業だと思います。この大会に向け、崇勲は、敢えてフリースタイルをすることを本番まで禁欲し、本番で久しぶりにフリースタイルができる楽しさを爆発させるようにしたと語っていました。確かに、この日の崇勲は、まさに“水を得た魚”ならぬ、“海水を得た春日部鮫”と化し、楽しそうにラップを繰り出していたように思います。

この大会での優勝を機に、崇勲のプロップスは一気に上がりましたが、まだまだ彼の実力に見合うほどではないような気がします。ただ楽しみなことに、先日の9sariステーションの放送では、漢a.k.aGAMIの口から、崇勲がフリースタイルダンジョンに出場し、大活躍することを期待させるような発言がありました。崇勲の凄さが真の意味で皆に知れ渡る日も、近いかもしれませんね。非常に楽しみです。

関連記事【逃走中 by 崇勲】はこちら

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さて、今回は2015年において最も注目が集まった大会KING OF KINGSについて、DVDで改めて振り返ってみました。第一回の大会としては、全てにおいて上々の出来だったのではないかと思います。今後、更なる改善が行われていき、もっともっと良くなっていくのではないかと思います。

厳選されたMC16名しか出場していないことで、ひとつひとつの試合のレベルも高く、繰り返し見た時も、スキップする試合が少ないように思います。興味があって、まだ持っていない人は、是非改めて検討してみて下さい。次回からは、各大会における年末の王者を集わせ、年明け1月上旬にKOKを開催するようです。そちらも今から非常に楽しみですね。

では、今回はこのへんで。

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