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日本語ラップ・MCバトルの“今”を語るブログ

Pto6の備忘録③(MCバトルの好きなミカタ:着地)

どうもPto6(ぴーとろっく)です。

今回は、久しぶりに箸休め記事を書きたいと思います。テーマはMCバトルにおける“着地”について。“印象に残る名勝負”が生まれる要素には、強烈なパンチラインや、巧みなライム、独特のフロー、熱いバイブス、的確なアンサーなど、様々なものがあると思います。しかし、“華麗な着地”というのが、私が好きになるバトルには欠かせない要素になっているということに最近ふと気が付きました。

着地にもいろいろ定義があるかもしれませんが、ここでいう着地とは後攻MCの最後のバースのことを指しています。つまりは、そのバトルにおける本当にラストのバース。そこでビートが止まり、観客がどわっと湧き上がるあの瞬間です。バトル中の対話にオチをつけ、更には勝敗をも決定づけるワンバース。私はそのような見事な着地が大好きで、それがあるバトルは何度も見返してしまいます。

そこで、今回の記事ではその“着地”に注目して、いくつか私の好きなバトルを例に出しながら、着地について書いていきたいと思います。ただ、なにも“着地が見事なバトルベスト10選”的なものを作るのが目的ではなく、あくまで着地について語りたいだけなので、バトル選びについてはいくつか条件を設けて選出しました。

条件①は、比較的有名なバトルということです。今回の記事は着地部分だけ抜き出して書いていきますが、バトルの内容を知っていてこそ、その着地の素晴らしさがわかるというものです。そのため、広く認知のあると思われる有名なバトルの中から選出することにしました。条件②は、その着地を最後に勝敗が決まったバトルということ。つまりは、その着地の後、延長戦にもつれ込んだりしないで勝敗が決まったバトルということです。また条件③は、その着地を繰り出した後攻のMCが勝ったバトルということ。条件②と③は、バトルとして“勝敗を決定づけたラストバース”という意味で条件にしました。もちろん勝敗を決めた要因は着地だけではないでしょうが、その着地も勝敗の一因にはなっているだろうと思ったバトルを選んでいます。

そして、何より大前提としての条件⓪は、私が個人的に好きなバトルということです。そのため、とても偏りのある選出になっているかもしれませんが、その点はご了承いただけると幸いです。

さて、前置きが長くなりました。では、さっそくいってみましょう。

MCバトル好きな着地


“KICKで言うところのMCU 足りないバイブスとテクニック”
チプルソ vs SIMON JAP@戦極MCBATTLE第5章


戦極が公式ベストバウトとしてYouTubeに公開しているバトルですが、今や100万回以上再生されているという名勝負中の名勝負です。私も何度見たかわかりません。試合内容はスタイルの異なる二人が、それぞれの良さを発揮しながらぶつかり合う素晴らしいバトルになっています。そして、最後にチプルソが決めたのが上記の着地バース。KICKというのはご存知KICK THE CAN CREWのことで、MCUはそのメンバーのMCです。

このバースで私が唸ったのは、どの角度でみても秀逸なラインだということです。まずは韻的な角度で見てみると、「エムシーユー」と「テクニック」という使い古されていない言葉で韻が踏まれています。8小節ぴったりにビートが止まるところも相まって、この気持ちの良いライムがバトルの余韻としていつまでも残ります。

次にバースの内容という角度で見てみても、KICKの中におけるMCUの立ち位置を上手く表した巧みな比喩になっていると思います。間接的にMCUもディスっているわけですから、チプルソはひどいことをしますよね(笑)ただ、ここで少し補足をしておくと、MCUはバイブスやテクニックが無いMCではありません。しかしKICKというクルーの中に入ったときは、それらの要素に秀でたLITTLEやKREVAがいることにより、バランスをとる役を担うことが多かったのでそのような印象をもっているのだと思います。更に言うと、彼の魅力はその抒情的なリリックにあると私は思っているので、いつかその点については別の記事で書かせていただきたいと思います。

さて、話を戻します。最後にバトルのラストバースという角度でこのバースを見たときには、SIMON JAPに対するこのバトルを総括するような強烈なディスになっているという点が素晴らしいと思います。バトルを通して見てもらったらわかるように、この試合はお互いのバイブスとテクニックが飛び交い合う熱い試合になっています。しかし、そんな試合にも関わらず、チプルソは「お前のバイブスとテクニックは全然ダメ」と最後にSIMON JAPに言い放つのです。このラインが最初から仕込んでいたネタだとしても、この試合の流れで使ったからこそ、皮肉の効いた強烈なパンチになったのではないかと私は思っています。


“俺の方に振り向く女神 ライム突き立てるコメカミ!”
FORK vs HIDADDY@UMB2006


こちらも名勝負中の名勝負。やはり良いバトルに良い着地はつきものですよね。以前、このブログでも書き起こしをさせてもらったほど私も大好きなバトルです。2度もの延長を繰り返した拮抗したバトルに終止符を打ったのはFORKのこのラストバースでした。正確にはこの延長2回目のFORKのライムはどれも本当に秀逸で、このラストバースがなくとも勝っていたかもしれません。ただ、この見事なまでの着地が、最後の最後の念押しのように、勝敗を決定づけたように当時の私は感じました。


このバトルにおけるFORKの最後の8小節は、私に体操競技における鉄棒の大車輪のイメージを想起させます。ライムの一つ一つを、鉄棒から手を放し宙に舞う離れ業として見たとき、FORKはこの8小節の中で何度も連続技を決めていることになります。そして迎えたラストバース。FORKは勢いよく鉄棒から手を放し、着地に向け空中に大きく飛び出していきます。一つの押韻で繋ぎ合わせるという華麗な回転技を加えていくFORK。観客はその結末を息を飲んで見守ります。そして、“ライム突き立てるコメカミ”で、一寸たりともヨロけないピタリとした着地を見せたFORK。その見事な着地っぷりに観客は大歓声を上げるのです。

あくまでも私の頭の中のイメージですが、私はこのバトルを見返すたびに、宙を舞い、ピタリと着地するFORKの姿を思い浮かべてしまいます。私にとってFORKのバトルは、相手と殴り合う格闘技というよりは、このように華麗な技を競い合う技能競技のような印象を持っています。だからこそ、どこか上品で、色気溢れる、気持ちの良いバトルが多いのではないでしょうか。バチバチの試合も好きですが、どちらかというと私はこういったスキルで競い合うバトルの方が見返す回数は多い気がします。


“Lick-Gバイバイ 御機嫌よう!”
裂固 vs Lick-G@第9回高校生RAP選手権


最近のバトルで、着地に唸ったといえばこのバトル。高校生RAP選手権史上過去最高レベルと言われたこの大会の決勝戦は、これまた過去最高の二人がぶつかり合った素晴らしいバトルでした。高校生離れした卓越したスキルを持つこの二人。変幻自在なフローとライムを繰り出す、どこをとっても隙のない総合力の高さが売りのLick-Gに対し、どこかFORKをすら彷彿とさせる、巧みなライミングを武器に応戦する裂固。甲乙つけがたいこの名勝負の命運を分けたのは、上記の素晴らしい着地のラインではないでしょうか。

このバトルにおける裂固の最後の4小節は、上記のFORKの時とは異なり、私に綱渡りのイメージを想起させます。“もう既に保ってるモチベーション”というバースから裂固は、勝敗を握る着地へと向けその綱の上を歩き始めます。続くワンバースで“優勝候補にノミネート”と綺麗に押韻を決め一歩綱の上を進むと、着地という対岸へは残りツーバースが残されています。そこで裂固は“裂固 on the micro phone”という韻を踏まないラインを繰り出します。ここで観客は、彼が踏み外したのではないかと一瞬ドキッとするのです。ここにきて、ついに押韻のストックが尽きてしまったのか、と。しかし、この最後から二番目のバースは着地のラストバースを際立たせるための敢えての一歩だったのです。楽曲でもフックのライムを際立たせるため、フック直前のバースに敢えてライミングを添えないというKREVA等が得意とするテクニックがありますが、このテクニックを裂固はこのバトルの場で応用しているのです。

そして繰り出した、すべてを決める上記のラストバース。一度は踏み外したかのように見せていたライムを復活させ、見事に一繋ぎの綱の上を渡り切りました。勝利を掴みかけていたLick-Gの手から、寸でのところでトロフィーをかっさらうドラマチックでスリリングな素晴らしい着地だったと思います。決勝戦というこの場の空気も相まって、最後の最後まで息を飲んで見つめてしまう着地ですよね。こういった拮抗したバトルでは、やはり着地の重要性が増すと思います。そして、バトルが後攻有利と言われている一つの理由がここにあると思います。


“MC☆ニガリ 赤い稲妻? 腐った名前で馬鹿粋がるな!”
SURRY vs MC☆ニガリa.k.a赤い稲妻@UMB2014


UMB2014のDVD発売前のTrailerでも、動画の最後に使われたことで有名なワンバースです。これまでご紹介してきた着地は、それまでのバトルの流れがあることで威力が最大化するものが多かったですが、このバースについていえば、どの場面で使ったとしても強烈なパンチラインになり得るバースです。ただ、いつ出してもいい強力なラインを最後の最後までとっておくというところに、SURRYの凄さを改めて痛感させられます。

このバトルは、高いレベルでのスキルの応酬があり、ラストバースに至るまでも何度も盛り上がりがあったバトルでした。それにも関わらず、最後の最後で、これまでのどのバースよりも盛り上がるパンチラインが繰り出されたことで、一気に勝負が決まってしまいます。着地をきれいに決めるということ以外に、ラストバースの利点は、そのラインに対し、相手は言い返すことができないという点があります。仮にこのバースを一本目などで繰り出していたとしたら、”馬鹿粋がるな”をかき消すため、ニガリは“赤い稲妻”の韻で、自身を肯定するようなバースを発することもできますし、逆に、相手SURRYの名前で韻を踏み反撃することもできるのです。しかしラストバースで繰り出されてしまったら、対抗する手段はありません。

このバトルのように、最後の最後に特大のパンチラインを繰り出す例は他にも多く見受けられます。例えば、UMB2013予選のオープニングゲームでおこなわれたエキシビジョンマッチ【R-指定 vs TKda黒ぶち】もそんなバトルのひとつです。このバトルは2度延長が繰り返されるのですが、その1本目のバトルにおけるR-指定のラストバースがとても秀逸でした。

“今日お前の葬式 黒ぶちの枠が良くお似合い"

TKda黒ぶちに対し、遺影の黒ぶちが似合っていると言い放つのです。その秀逸なディスに言われたTKも興奮気味にRを称えていました。エキシビジョンマッチということで、その後延長戦に入りましたが、本大会では一発で勝敗が決まっていたのではないかと思うほど強烈なパンチラインです。こんな風に、ラストバースで最高のパンチラインを繰り出すという着地も、とても見応えがありますよね。こんなバトルも私の好きな着地パターンのひとつです。


俺は2軍じゃなくて今や1軍 Premierのビート無しでも作るクラシック!
R-指定 vs DOTAMA@UMB2013


バトルの王様R-指定も、着地の力量で今の地位を築いたといっても過言ではありません。彼の着地は本当に見事なものが多く、どのバトルも華麗に着地を決めてくれます。やはりバトルの強い人ほど、着地には気を使っているのではないでしょうか。そんなRが繰り出した着地の中で、私がもっとも唸ったのがこのバトルにおける上記のバースでした。因縁の相手DOTAMAとの2連覇がかかるUMBの決勝戦、しかも2度目の延長戦における最後の8小節。その最後の最後に繰り出されたのがこのバースなのです。


先ほど、SURRYとニガリの一戦について書いたとき、ラストバースの利点のひとつに、相手がアンサーを返せないということがあると書きました。それをRが食らったのが、実はこのバトルの2年前UMB2011でのDOTAMAとの初対戦でのことでした。後攻のDOTAMAはR-指定のディスに対しすべて巧みなアンサーを返した後、ラストバースでこう突きつけるのです。

“そんなEXILEの2軍みたいな見た目じゃダメだよ!
NY行ったってPremierから100万でビートは貰えないよ!”


その的確でユーモアに満ちたディスが観客を捉え、優勝候補とまで言われた当時のR-指定は、なんと初戦で敗れてしまうのです。そう、このディスに対する一言の反撃すら許されぬままに。それから二年後、二人は再びUMBで顔を合わせることになります。先ほど申し上げたように、その場は決勝戦。R-指定は前年のチャンピオンになっていました。私は、このバースが2度目の延長戦のラストバースで飛び出してくるという点に、強く感銘を受けてしまいます。バトル後インタビューでR本人も語っていましたが、このバースはバトル前から準備していたわけではなく、突発的に「まだアイツに言い返していないアンサーがあった」と思い出し繰り出したバースだというのです。確かに、もし事前に仕込んでいたネタだとしたら、1本目のバトルで使うはずですもんね。

極限状態でバトルをする中、一筋の稲妻がRの頭に光ります。あの一言の反撃も許されなかった、自分を初戦敗退へと追いやったあの忌々しいラインに対し、今度はこっちが反撃の余地を与えずに、最後の最後に叩き付けてやる。そして、今やUMB王者となった自分には、その言葉を言えるだけの権利と実力が充分に備わっているはずだ。Rのそんな思惑通り、そのラストバースは凄まじい威力をもってDOTAMAを打ちのめします。そして2年越しの華麗なアンサーに、会場は割れんばかりの大歓声を上げるのです。因縁の対決において勝敗が決まった瞬間でした。見るたびに鳥肌が立ってしまうこの見事な着地も、私の大好きな着地のひとつです。

8マイル 

さて、今回はMCバトルについて、私の好きな“着地”というポイントに注目して書かせていただきました。今や日本中の至る所でMCバトルの大会が開かれ、数え切れないほど多くの名勝負が生まれてくるようなシーンになっており、おそらく私が知らない名勝負も多いことでしょう。今回取り上げた5つのバトルの他にも、華麗な着地が見られるバトルは数多く存在しているはずです。もし素晴らしい着地のバトルをご存知の方がいらっしゃれば、是非とも教えていただきたいと思います。

現在のバトルブームの波に乗り、これからもどんどんバトルを目にする機会が増えていくかと思いますが、私はこんな風に、バトルをいろんな見方で楽しんでいきたいなと個人的には思っています。今回の記事もとても個人的な内容になってしまいましたが、誰かの名勝負を見返すきっかけになれたとしたら幸いです。

では、今回はこのへんで。

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4 Comments

-  

まったく条件に合ってませんが、UMB2015のDOTAMA VS GIL のGILのラストバースが好きです!
あれ言われたら、ちょっと呆然としちゃいますよね(笑)

2016/07/28 (Thu) 01:27 | EDIT | REPLY |   

-  

度々コメントしている者です。
SURRYと裂固の締めは本当にTHE 決着をつけたラインって感じですよね。
前者は拮抗した状況からの決着、後者は綺麗すぎる逆転劇ですよね。完全に「ライム連打の百烈拳」でLick-Gが優勢でしたね。
Rの「〜作るクラシック」も非常に素晴らしいですけど、これによって、試合が決したというよりは、「A$AP Mobの流派、炎殺黒龍波」がその要因かなと思います。「RAP、HIP HOPにプロポーズを」と「〜作るクラシック」はあくまでダメ押し的なものかなと感じました。

2016/07/28 (Thu) 23:49 | EDIT | REPLY |   

Pto6  

Re: タイトルなし

> まったく条件に合ってませんが、UMB2015のDOTAMA VS GIL のGILのラストバースが好きです!
> あれ言われたら、ちょっと呆然としちゃいますよね(笑)

コメントありがとうございます!
確かにあれはシビレル着地でしたよね^^

“お前は揚げ足も笑いもとれるが 肝心のチャンピオンは獲れなかった”

結局これでは勝負は決まれず、延長戦でDOTAMAが勝ちましたが、見事な着地なのは間違いありません。
好きな着地を教えて下さりありがとうございました^^

2016/07/30 (Sat) 13:42 | EDIT | REPLY |   

Pto6  

Re: タイトルなし

> 度々コメントしている者です。
> SURRYと裂固の締めは本当にTHE 決着をつけたラインって感じですよね。
> 前者は拮抗した状況からの決着、後者は綺麗すぎる逆転劇ですよね。完全に「ライム連打の百烈拳」でLick-Gが優勢でしたね。
> Rの「〜作るクラシック」も非常に素晴らしいですけど、これによって、試合が決したというよりは、「A$AP Mobの流派、炎殺黒龍波」がその要因かなと思います。「RAP、HIP HOPにプロポーズを」と「〜作るクラシック」はあくまでダメ押し的なものかなと感じました。

いつもコメントありがとうございました。
いくつかの着地に共感いただけて嬉しいです^^
確かに、DOTAMA vs Rの3本目に関していえば、着地なしでも勝負は決まっていたかもしれませんね。
明らかにDOTAMAは満身創痍な状態でしたし、対照的にRはどんどん乗っていっていましたしね。
ご指摘のように、Rの素晴らしいラインもばんばんでていましたね。着地はダメ押しというのも同感です^^

2016/07/30 (Sat) 13:48 | EDIT | REPLY |   

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