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名曲の提供⑨(Pellicule by 不可思議/wonderboy)

どうもPto6(ぴーとろっく)です。

今回は、心に沁みる名曲をご紹介したいと思います。不可思議/wonderboyの代表曲にして不朽の名曲【Pellicule】です。

それでは、いってみましょう。

【Pellicule by 不可思議/wonderboy


“こういうのってあんまり格好良くはないけど
初めから俺達は格好良くなんてないしな”

哀愁漂う旋律の上で、等身大に紡がれていく言葉。学生時代の友人に向けて作られたというこの楽曲は、過ぎ去った青春時代を思い返したり、ありもしない未来を空想したりしながら、虚しい現実から目を背けることでなんとか今を生きようとする、そんな20代の若者の姿がリアルに描かれています。

この楽曲を聴くと、いつも違ったメッセージを受け取るような気がします。人生というものの儚さ。時間というものの残酷さ。これまでの人生への後悔。これからの人生への希望。そして何より、今を生きるということの難しさ

昔の思い出を懐かしんでみたり、でっちあげた未来を思い描いてみたり。好きなものに没頭したり、思いっきりふざけてみたり。私たちは、持ち得るものを総動員しながら、目の前の現実に飲み込まれないように、懸命に今を生きています。この楽曲で描かれている自嘲的な若者。その彼の言葉が、こんなにも私たちの胸に迫ってくるのは、彼の懸命な叫びが、並べられた言葉の裏に潜む悲痛の叫びが、痛いほどに理解できるからではないでしょうか。

そして、何度も繰り返される嘆きとも、自身への鼓舞ともとれる言葉たち

“格好良くはないけど”

“ただ前に進むだけだ”

そんな、開き直りや虚勢のように思えた言葉たちが、曲の最後の方ではどこか決意を決めた若者の言葉にも聞こえてきます。今日だけは、昔を思い出してもいい、未来を思い描いてみてもいい。どんな手段を使ってでも、今をなんとか乗り切ってやる。格好悪くても”いい、“前に進むだけだ”と。

モラトリアムな若者の痛々しい叫び。一聴するとそのようにも捉えられかねない楽曲ですが、きっとこの楽曲は大人になればなるほど、心に沁みる楽曲なのではないかと私は思っています。もし、この楽曲を聴いて、良さを感じなかったという若い方がいらっしゃったら、出来ればあと少し歳をとったときに、もう一度だけ、この曲を聴いてみて欲しいなと思います。頭の片隅でいいので、どうかこの曲の記憶を残しておいていて下さい。

ポエトリーラッパーとしての数々の大会での輝かしい実績や、地道な路上ライブを通じて、徐々にその名が広まっていった不可思議/wonderboy。その実力は、数々の著名人や多くのアーティストをも虜にしています。そんな彼の1stアルバム【ラブリー・ラビリンス】には、人生の迷宮を愛してしまった男が歌い上げる、珠玉の楽曲たちが収録されています。興味をもった方は、是非手に取り聴いてみて下さい。

不可思議 

2011年の6月。もし、私がその頃既にこのブログを初めていたとしたら、きっと上記のような内容でこの記事を締めくくっていたことでしょう。しかし、残念ながら今となっては、どうしてもそれに続けて書かなければならないことがあるのです。

2011年6月23日。不可思議/wonderboyは不慮の事故でこの世を去りました。享年24歳でした。

やっと自身の実力が認められはじめ、念願の1stアルバムを出した翌月に、彼は亡くなってしまったのです。彼の死後、そのドラマチックな生き様が話題になり、彼の音楽はネットを介しどんどんと広がっていきました。そして、昨年2月には、ドキュメンタリー映画にまで製作されたのです。

今や、彼の作品や楽曲動画の紹介文には、何よりも先にまず彼の死が語られます。確かに若くして死んだ背景があると彼の言葉はより儚く響き、神秘的な力をもって聴く人に突き刺さることでしょう。でも、私はそのことを少しだけ悔しく思うことがあります。だって彼の楽曲は、彼の死という背景がなくても、こんなにも魅力的で力強さを持っているのですから。私は、今回この記事を書く上で、導入は彼の死を抜きにして純粋に楽曲について語りたいと思っていました。その事実をまだ知らなかった人には、是非とも先入観をもたずに純粋に楽曲を聴いて欲しかったのです。

彼の死は、多くの人に衝撃を与え、そして底知れぬ悲しみを与えました。生前、彼と親しくしていたラッパー、神門もそんな悲しみに包まれた一人でした。彼は、不可思議/wonderboyの死の翌年、2012年に出した自身のアルバムにおいて、【Pellicule】をカバーした楽曲を収録しました。同じトラックを用いて、原曲のリリックを一部残しつつも、後半は自身の言葉で、くなった不可思議/wonderboyへと語りかける神門。このカバー曲も本当に素晴らしい楽曲です。

【Pellicule by 神門


“次、交差点出たなら右に曲がれよ

神門の深い悲しみと憤りがひしひしと伝わってくる楽曲です。リリックには、不可思議/wonderboyの他の楽曲のリリックを随所でサンプリングしており、リスペクトを感じさせられます。そのうちのひとつ、上記のリリックに至るまでの部分は、【世界征服やめた】という楽曲にある下記の一節から引用されたものです。

“いやちょっと最近迷路にはまっちまってさぁ、すぐに抜け出せると思ってたんだけど、なかなかそうもいかなくて、あ、でもさっき道を聞いたら交差点に出るたび左に曲がれば大丈夫だって言ってたから、もうきっと、きっと、すぐだよ”

ただ、神門の悲痛な声から、不可思議/wonderboyが亡くなった交通事故の状況のことを言っているのではないかと、どうしても想像してしまいます。彼は、自身の楽曲の歌詞の通り、交差点で左に曲がって命を落としたのでしょうか。真相はわかりません。

彼の音楽は、今なお多くの人に聴かれ続けています。彼の死後Youtubeに公開された【Pellicule】のPVは、今や130万回再生を超えています。きっとこれからも増えていくことでしょう。死んでしまっても、作品は生き続ける。これはアーティスト達だけに許された特権ではないでしょうか。彼の作品を聴いていると、本当にそうだなと、心から感じることができます。

これからも、たくさんの人に彼の音楽を聴いてほしいと思います。そして、私もこれからもずっとずっと、彼の音楽を聴いていきたいと思っています。

では、今回はこのへんで。


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8 Comments

IDECCHI7  

語り継がれる魂と言葉。

A・)そう言えば去年の冬から春にかけて彼のこの曲を聴きまくってました。すごい才能の持ち主だなぁ……と思って聴いていましたが、そうなんですよね。その時に彼はもういなかったんですよね。だけど彼の言葉は確かに生き続けていた。人の心に語りかけては響き続けている。何ていうか言葉に人を惹きつける重さがある。それが1番の魅力かなと。言葉に力を持つって実はなかなか難しい事。それができる彼はまさに逸材だと思います。多くの人に知られて欲しいし、愛されて欲しいアーティスト。

2016/08/01 (Mon) 00:44 | EDIT | REPLY |   

Pto6  

Re: 語り継がれる魂と言葉。

> A・)そう言えば去年の冬から春にかけて彼のこの曲を聴きまくってました。すごい才能の持ち主だなぁ……と思って聴いていましたが、そうなんですよね。その時に彼はもういなかったんですよね。だけど彼の言葉は確かに生き続けていた。人の心に語りかけては響き続けている。何ていうか言葉に人を惹きつける重さがある。それが1番の魅力かなと。言葉に力を持つって実はなかなか難しい事。それができる彼はまさに逸材だと思います。多くの人に知られて欲しいし、愛されて欲しいアーティスト。

コメントありがとうございます。
言葉に人を惹きつける重さがある。的確な表現ですね^^
そして、その重さは決して彼の死があったからこそではなく、もともと備わっていたものだと思います。
本当に惜しい人を亡くしました。これからも多くの人に聴かれ続けてほしいですね。

2016/08/02 (Tue) 21:27 | EDIT | REPLY |   

erc  

初めてのコメントですが、いつもこのブログを楽しく見ています。
自分の好きなアーティストが出てきてすごくうれしかったので
ついコメントをしてしまいましたw
初めて聞いたとき、すごくくらってラブリーラブリンスとさよならを購入しました。
なかでも一番好きなのがPelliculeで、聞くたびに世界観に引き込まれるとともに、
悲しいというか寂しい気持ちになっています。

2016/08/04 (Thu) 00:31 | EDIT | REPLY |   

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2016/08/04 (Thu) 21:25 | EDIT | REPLY |   

Pto6  

Re: タイトルなし

> 初めてのコメントですが、いつもこのブログを楽しく見ています。
> 自分の好きなアーティストが出てきてすごくうれしかったので
> ついコメントをしてしまいましたw
> 初めて聞いたとき、すごくくらってラブリーラブリンスとさよならを購入しました。
> なかでも一番好きなのがPelliculeで、聞くたびに世界観に引き込まれるとともに、
> 悲しいというか寂しい気持ちになっています。

ercさん
コメントありがとうございます。とてもうれしいです^^
アルバムを一気に2枚買っちゃうなんて、相当な衝撃だったんですね。
とてもわかります。私が彼の音楽と出会ったのは、精神的に疲れているときだったのですが、
聴いているうちに、どんどん心が晴れていくような気持ちになりました。
そして、今自分がぶつかっている壁なんてものは、なんてことない小さなものなんだと思うことができました。
そういう意味では、私を救ってくれたアーティストと言えるかもしれません^^

こんな風に、これからもどんどん彼の音楽は多くの人に影響を与え続けるんでしょうね。
この記事を通して、ercさんのようなファンの方と言葉を交わせて嬉しかったです。
本当にコメントありがとうございました!また、Twitterでも記事のことつぶやいてくださり嬉しかったです。
今後ともよろしくお願いします^^

2016/08/04 (Thu) 22:46 | EDIT | REPLY |   

Pto6  

Re: 右に曲がる理由

naqruseさん
心のこもったコメントありがとうございます。

>ただ、生きていて欲しかった。
>すれ違っていたかもしれない、新宿の路上で歌っていて欲しかったと考えるのはエゴでしょうか。

とてもわかります。私は今大阪に住んでいますが、数年前まで関東にいたので、新宿のあの路上も何度も通っていました。
もしも彼が生きていたら、おそらく大きな舞台でライブをしているとは思いますが、どんなに有名になっても路上ライブも続けていたのでは、なんてことも想像してしまいます。
なにより、彼がつくりだす曲が、もっともっと聴きたかったです。。。

> 題名の「右に曲がる理由」ですが、世界征服やめた(不可思議/wonderboy)の歌詞の中にある・・・「いやちょっと最近迷路に>>はまっちまってさぁ、すぐに抜け出せると思ってたんだけどなかなかそうもいかなくて、あ、でもさっき道を聞いたら交差点に出>るたび左に曲がれば大丈夫だって言ってたから、もうきっと、きっと、すぐだよ。」・・・からのオマージュだと思います。そう>どこかに書いてあった気がします。記憶違いならすいません。

記事にも書きましたが、やはりそうなんですね^^
交通事故の状況をも語っているというのは、深読みだったみたいですね。
教えてくださりありがとうございます!

2016/08/04 (Thu) 23:03 | EDIT | REPLY |   

新潟のオタクビーボーイ  

弟がDJで出たイベントを見た時に、彼がライブをしていて、その時打たれて現場でCDを買いました。
亡くなったことがニュースになった時は本当にショックでした。
未だに聞くと、鼻の奥が深くツンとしますね。

こうして取り上げて頂くことに感謝です。

2016/09/15 (Thu) 12:37 | EDIT | REPLY |   

Pto6  

Re: タイトルなし

> 弟がDJで出たイベントを見た時に、彼がライブをしていて、その時打たれて現場でCDを買いました。
> 亡くなったことがニュースになった時は本当にショックでした。
> 未だに聞くと、鼻の奥が深くツンとしますね。
>
> こうして取り上げて頂くことに感謝です。


新潟のオタクビーボーイさん
お久しぶりです^^またコメントいただけて嬉しいです。

弟さんDJなんですね。そして、不可思議/wonderboyさんと共演されていたなんて凄いです!
そして、なにより彼のラップを生で見られたことが一番羨ましいです。
私は音源でしか聴いたことがありませんでした。
そして、今となっては永遠にそれを実現することができなくなってしまいました。

私は純粋にこの曲をご紹介したいとこの記事を書いたのですが、
このようにコメントをいただくたびに、この記事を書いて本当によかったと心底思っています。

今回もあたたかいコメントありがとうございました^^
大変励みになりました。

2016/09/15 (Thu) 19:11 | EDIT | REPLY |   

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