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珍しく海外クラシック⑦(Reasonable Doubt by JAY-Z)

どうもPto6(ぴーとろっく)です。

今回は、久しぶりに海外クラシック作品について書きたいと思います。ご紹介するのは、JAY-Zの1stアルバム【Reasonable Doubt】です。とにかくアルバムとしての完成度が高く、聴くたびに思わず感心してしまう作品です。

それでは、いってみましょう。

【Reasonable Doubt】
JAY-Z 

<収録曲>
  1. Can't Knock The Hustle
  2. Politics As Usual
  3. Brooklyn's Finest
  4. Dead Presidents II
  5. Feelin' It
  6. D'evils
  7. 22 Two's
  8. Can I Live
  9. Ain't No Nigga
  10. Friend Or Foe
  11. Coming Of Age
  12. Cashmere Thoughts
  13. Bring It On
  14. Regrets
  15. Can I Live II

JAY-Zは、HIPHOPアーティスト史上最も成功した人物として知られています。グラミー賞をはじめとする数々の賞や称号を手に入れ、推定資産は500億、妻は歌手のビヨンセと、あらゆる面において成功を収めています。様々なランキングではHIPHOPシーンにおける頂点として、そしてジャンルを超えた偉大なる音楽家として世界中で称えられているアーティストです。

そんなJAY-Zの栄光は、すべてこのデビューアルバムから始まりました。アメリカのHIPHOP専門雑誌“The Source”で最高評価となる5本マイクを獲得すると、1stにしていきなり50万枚を売り上げゴールドデスクを獲得し、一気にスターダムにのし上がりました(後には150万枚:プラチナデスクも獲得)。その後は、毎年コンスタントに良質な作品をリリースし、その地位と人気を不動のものとし、いつしかキングと呼ばれるまでになっていくのです。

そんなJAY-Zが2013年に、それまで発表していた12枚のソロアルバムを自らランキング付けして公開したことがありました。その時、JAY-Z自らが選ぶベストアルバムとして挙げられた作品が、この1stアルバムのReasonable Doubtだったのです。作品によっては500万枚を超えるヒットを生むJAY-Zにとっては売り上げ的には決して高くない本作なのですが、やはり彼自身にとってもこの作品は、いつまでも色褪せることない傑作として認められているのでしょう。評価のコメントでは「Classic」とだけ短く語られていました。(ちなみにその時の2位は6thアルバム【Blueprint】でした。こちらのアルバムも私が大好きな作品で、プロデューサKanye Westを世に広めた出世作としても知られる作品です。)

もともと、ストリート稼業でのし上がったハスラー出身のJAY-Z。このアルバムでも、過酷なストリートにおけるハードな体験が数々語られています。このアルバムのような“ハスラー・ラップ”と似たような括りで、“ギャングスタ・ラップ”というものがありますが、私はその両者を、どちらもストリートにおけるリアルを歌うという点で同じもののように捉えていました。しかし、改めてこのアルバムのリリックを読みながら聴いてみると、両者の違いを感じとることができたような気がします。

ギャングスタ・ラップは、暴力性と猥雑さ、荒々しさが強調され、どこか“悪自慢”や“攻撃的なリリック”の傾向が強いのに対し、ハスラー・ラップは、あくまでも“ビジネス”としてのクールな目線で見た、スリリングさシリアスさが強く表現されている傾向を感じました。それゆえに、ハスラー・ラップからはタフな現場で金を稼ぐという男の知性が感じられ、どこか上品な佇まいを感じます。そして、そんなハスラー・ラップの中でも本作は、一流のプロデューサ達が作る繊細でjazzyなトラックと、JAY-Zの知性溢れるリリックによって、剣呑な雰囲気が抑制された、アダルトな魅力溢れるセクシーなアルバムに仕上がっているのです。

さて、それでは本作における収録曲の中から、いくつか楽曲をご紹介しましょう。好きな曲、重要曲がとにかく多く収録されている本作。正直ピックアップするにあたっては悩みましたが、私がこのアルバムの流れで最も好きな箇所、4曲目~6曲目にかけての3曲を今回はご紹介させていただくことにしました。是非聴いてみてください。

Dead Presidents II


JAY-Zは自身でこのアルバムを“2度と書けないくらい完全なリリック集”と分析しています。自身でそのように豪語するだけあって、確かにリリックを読んでみると巧みな表現が多いことに気づかされます。もちろん、英語を習得している人の理解には遠く及ばないにしろ、一つ一つの表現法の面白さを私ですら感じることができました。例えば、この曲のフックのリリックひとつとってもそうです。

歌詞カードの日本語訳を見ると、フックの部分は以下のように書かれています。

“金はすべて俺のもの、俺は金がすべて”

これだけを読んでしまうと、リリカルの欠片も感じない、ありきたりで陳腐なリリックのように感じると思います。しかし、日本語訳を読むだけでは、この部分の表現の面白さを味わうことができません。日本語に意訳すると確かに上記の通りなのですが、それをJAY-Zは以下のように歌っているのです。

“I'm out for dead fuckin presidents to represent me”

金を単なるMoneyではなく、スラングで米紙幣を示すdead presidennts”(米紙幣には歴代大統領の肖像画が印刷されていることから)と表現することで、一気にストリートにおけるアナーキーな空気感が増しているように思います。こうしてリリックの原文を読むと、このリリックが単なる金の亡者的な発言なのではなく、“俺を主張する為に、俺は金を稼ぐ”というニュアンスを掴むことができると思います。そして、そのように表現することにより、“presidents”“represent”で韻も踏んでいるわけです。細かいですが、本作におけるリリックはこういった一つ一つの表現に拘りを感じることができます。

ただ実を言うと、このリリックは有名ラッパーNASの楽曲【THE WORLD IS YOURS】のリリックをサンプリングしたものです。リリシストとして高い評価を得ているNASの巧みな表現力と、稼ぐことに対する思想に共感を得たJAY-Zがフックとしてこのリリックを引用したのでしょう。表現そのものとしても秀逸ですが、サンプリングの仕方としてもニクイ使い方ですよね。こういう風に、他アーティストからのサンプリングというのも、HIPHOP作品を楽しむ上での醍醐味です。ちなみに、本アルバムの7曲目22 Two'sでは、A Tribe Called Quest(ATCQ)の名曲【Can I Kick It?】のリリックをサンプリングしています。そちらも是非とも聴いてみて欲しい楽曲です。


Feelin' It


本アルバムからシングルカットされた楽曲のひとつです。ちなみにシングルカットとしては、上記の【Dead Presidents】(アルバム収録版がDead Presidents IIとなっているのは、新たにリリックが書き直されたから)と、1曲目のCan't Knock The Hustleに次いで3番目に発売されました。

本楽曲は、その当時シーンで最も将来を嘱望されていたトラックメイカーSKIによるプロデュース曲です。SKIはこの曲の他にも、2曲目Politics As Usual、先ほどご紹介した【Dead Presidents】、7曲目22 Two'sをプロデュースしています。彼のトラックメイクはとにかく上モノの取り入れ方が秀逸で、どの曲もドラマチックな輝きを放っています。この楽曲でも、美しく繊細なピアノの旋律が、甘美な雰囲気を醸し出していますよね。

また、女性ヴォーカリストMeccaのフックも素敵です。そのどこか寂しげなヴォーカルが、より一層楽曲におけるメランコリックな味わいを深いものにしています。ちなみに、本アルバムの1曲目Can't Knock The Hustleでも女性R&B歌手Mary Jane Bligeがフューチャーされています。このような女性アーティスト達による味のあるパフォーマンスが、アルバム全体から感じるセクシーで甘美な雰囲気を作りあげる上で重要な役を担っているように思います。

D'evils


本アルバムのトラックといえば、この方の存在も忘れてはなりません。プリモことDJ Premierも、本アルバムでは3曲をプロデュースしています(本楽曲の他には10曲目【Friend Or Foe】、13曲目Bring It On)。この曲も、一聴しただけでプリモのそれとわかるトラックですよね。JAY-Zのラップとの相性も抜群です。

このように、例えリリックの意味がわからなくても、純粋な音楽として楽しめる秀逸なトラックが本アルバムには揃っています。そういう意味では、英語に疎く洋楽に苦手意識を持っている人にも安心して手に取って欲しい作品です。アルバムとして雰囲気が統一されていて、流れも良く一枚通して聴けるので、BGMとして聴くのにもいいかもしれません。

また、今回ご紹介した3曲の以外にも、本アルバムには有名曲がいくつも収録されています。3曲目の【Brooklyn's Finest】ではJAY-Zの同郷の兄貴分ビギーことThe Notorious B.I.G.をフューチャーし、ブルックリン賛歌を歌っています。柔のJAY-Zと剛のビギーコントラストが映える聴き応えのあるナンバーです。また、9曲目にはJAY-Zの代表曲のひとつAin't No Niggaも収録されています。実はこの曲【Dead Presidents】のシングル発売の際にB面として収録されたのですが、A面の楽曲よりも支持されてしまったという珍しい逸話を持つ楽曲です。ファンキーなベースとキャッチーなフックが耳に残る楽しい楽曲に仕上がっています。このように挙げだしたらキリがないほど良質な楽曲が本アルバムには揃っています。是非ともアルバムとして一度は聴いていただきたい一枚です。

さて、今回はJAY-Zの傑作デビューアルバム【Reasonable Doubt】をご紹介してきました。“合理的な疑い”と題されたこのアルバムですが、聴いていただければ疑いの余地なく素晴らしいアルバムだとわかるはずです。JAY-Z自らも認める真のクラシック作品。気になる方は是非とも聴いてみて下さい。

では、今回はこのへんで。



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2 Comments

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英語分からなくても歌詞の意味調べてスラングなんかも調べたりすると
和訳歌詞とは違った雰囲気になりますよね

2016/09/14 (Wed) 02:46 | EDIT | REPLY |   

Pto6  

Re: タイトルなし

> 英語分からなくても歌詞の意味調べてスラングなんかも調べたりすると
> 和訳歌詞とは違った雰囲気になりますよね

コメントありがとうございます!
そうですよね。私はこの作品に出会ったときにそれに気づきました^^
それ以降、和訳だけ見てると「なぜこんなにリリックが評価されてるのかわからない」と思っていた作品についても、しっかり英語で読んでみると、「なるほどな」と理解できることが何度かありました^^

2016/09/14 (Wed) 20:35 | EDIT | REPLY |   

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