HIPHOPの必須トーク

日本語ラップ・MCバトルの“今”を語るブログ

新作音源に小さく貢献⑱(助演男優賞 by Creepy Nuts(R-指定&DJ松永))

どうもPto6(ぴーとろっく)です。

今回は、先日2/1に発売されたCreepy Nutsの新作EP【助演男優賞】について書きたいと思います。オリコンチャート、iTunesランキングにも連日名を連ね、好調な売れ行きの本作。前作【たりないふたり】を上回るヒットとなりそうですね。


それでは、本作を聴いた感想を書いていきたいと思います。

【助演男優賞】
助演男優賞 

<収録曲>
1.助演男優賞
2.どっち
3.教祖誕生
4.朝焼け
5.未来予想図


前作【たりないふたり】と同様、”日本語タイトル”だけで統一された5曲入りのEP。USの流行を取り入れることに躍起となる今の日本HIPHOPシーンを横目に、あくまで"日本語ラップ”に拘りたいという彼らの決意のようなものを感じます。某ネット番組の作品紹介の際にも自ら説明していたように、本作は現在のシーンの主流とは一線を画す"彼らなりのオリジナルな作風”に仕上がっています。

EP2作目となる今作で、彼らは早くも自分たちのスタイルを確立したのではないでしょうか。私の思う彼らの個性・魅力はなんといってもその"ごちゃごちゃ感”です。彼らの曲を聴いていると私は、近年になるに連れ書き込みが増していく漫画【ONE PIECE】の絵のような味のあるごちゃごちゃ感がイメージとして頭に浮かびます。

ONE PIECEの作者は書き込みの増加について、ストーリーテンポを遅らせず、それでも書きたいことを削らずに書くための手段だと以前語っていました。おそらくそれと同様R-指定も、与えられた曲数(チャンス)の中で、言いたいことを余すことなく詰め込みたいという想いがはたらいているのではないでしょうか。結果それが彼ら独自の味となり、魅力的な個性になっているように思います。

そして、ひとつひとつの楽曲テーマに対し、それだけ"言いたいことが溢れている”というのがR-指定というラッパーの長所です。卑屈で斜に構えた猜疑心の強い彼だからこそのモノの見方、表と裏をわきまえた人間の心情描写、今に見返してやるという圧倒的な負けず嫌い精神。そしてそれらを自由自在にラップに落とし込む、豊富なボキャブラリーと高いスキル。彼らの楽曲を聴いていると、読書をした時と同じような、言語中枢が心地よく刺激される感覚を得ることができます。

私は、彼らのラジオ放送での語りも好きでよく聞いているのですが、普段の会話を聞いていてもR-指定の高い語彙力と話題におけるトピックの多さには関心してしまいます。連想ゲームのように次々に出てくる言葉達は、まさにフリースタイルのよう。そんな彼だからこそ、ラップにおいても繰り出す言葉ひとつひとつがあくまで自然で、"取ってつけたような印象”を聴き手に与えないのではないでしょうか。

さて、そんな彼らの味が滲み出た本作における5曲それぞれについて、一言ずつ感想を書いていきたいと思います。

◇◇◇◇◇

1.助演男優賞


"群雄割拠 跳梁跋扈 口八丁with 手八丁 チェケラッチョのエキスパート”

タイトル曲にして本作のリード曲となる楽曲。先行してMVが公開されていたのですが、アップされるやいなやネット上でも大きな話題となっていました。先日の段階で早くも200万回再生を突破。楽曲の出来もそうですが、昨年の日本エンタメ界を風刺したMV構成が秀逸で、私も何度も繰り返し見てしまいました。最初にタイトルを見ただけで「彼ららしいな」と思わず感じてしまった楽曲です。

基本的に根暗な彼らの曲は、本作における他の曲も含め、比較的"暗めな曲調”のものが多いのですが、この曲のように、リード曲と成りうるキャッチーな楽曲を作れるというのも彼らの強みですよね。一聴しただけで口ずさんでしまう、大衆の耳をも捉えてしまう、そんな魔力を持った楽曲です。この一曲があることで、他の曲はどれだけ奇抜なことをしようが、パッケージ作品としての座りをよくしているように感じます。

"助演”というテーマに紐付かれ、様々な固有名詞が飛び出してきますが、中でもバスケ部だったRらしい漫画スラムダンクからのラインが個人的にはお気に入りです。盛り上がりの良い楽曲ですので、カラオケで歌うのも楽しそうですよね。


2.どっち

"黒に近いグレー? 白に近いグレー?”

上記で"ごちゃごちゃ感”が彼らの魅力だと書きましたが、この曲が本作の中で最も"ごちゃごちゃ感”が発揮された楽曲です。ドンキ(ドン・キホーテ)とヴィレバン(ヴィレッジヴァンガード)に居るような、そのどちらとの人種にも馴染めない、自分たちの中途半端な立ち位置について愉快に歌い上げた楽曲です。置かれているモノの特性は違えど、それぞれの店はどちらも"様々なトピックの物が所狭しと置かれたごちゃごちゃとした空間”というところに共通項があります。それを表現するかのように、楽曲でも矢継ぎ早に話題が入れ替わり、多彩なトピックによる多種多様なワードがごちゃ混ぜで詰め込まれているのがわかります。

そして、この曲のようなトラックを作らせたら、DJ 松永の右に出る者はいないですよね。よく耳を澄ますと本当に多彩な音が重ねられていることに気付きます。まさに、ドンキに生息する系の人が好きそうなゴリゴリの音から、ヴィレバンにいるようなサブカル系の好む個性的でシャレオツな音までが使われており、それを敢えて愉快なコミック風に仕上げているところに、実にDJ 松永らしい独特の感性を感じてしまいます。


3.教祖誕生


”信者?・・・そうなのか? 儲けるって漢字に見えてきた”

タイトルや歌い出し、楽曲構成を含め、全編の至る所にキングギドラの風刺曲【スタア誕生】のサンプリングが見受けられる楽曲です。本楽曲では"現代のインターネット社会”を痛烈に風刺しています。特にTwitterについての描写が具体的で、「R-指定はホントによくTwitterを見てるなぁ」と思ってしまいました。以前から自分の性格を理解した上で、個人のアカウントを持ったないようにしていると語っていたRでしたが、彼は日頃このようにTwitterを覗いているのかもしれませんね。

リリックの内容も実に聴き応えがあり面白いのですが、この楽曲はR-指定のフローが多彩で楽しめます。レトロなトラックの上で、流行りの最新フローを違和感なく映えさせるスキルは流石ですよね。【みんなちがって、みんないい。】でも様々なフローを"実演”していたR-指定ですが、本当に彼はラップが好きで、いろいろなラップ曲を聴いて吸収しているんだろうなと感じます。


4.朝焼け

"俺は被害者 そう思ってる痛い奴”

R-指定のソロ時代の楽曲【使えない奴ら】を彷彿とさせる"歌もの”の楽曲です。【使えない奴ら】が好きだった私としては嬉しい気持ちになりました。どこか土臭いR-指定の歌声は、リリックと相まって味のある哀愁を漂わせます。フィーリングを込めたラップの表現力も、楽曲を出す度に高くなっているように思います。

中島みゆきや桑田佳祐など、歌謡曲もよく聴くと以前語っていたR-指定は、"歌もの”への抵抗も少なそうですよね。今後も1作品に1曲ペースでいいので、こういう曲も作って欲しいなと個人的には思います。過ぎ去っていく時間や周りの人達との比較に、焦りや後悔の念を抱くのは誰しもが経験する感情です。ときに卑屈となってしまいそうになるそんな時、朝焼けを眺めながら聴いてみたい、そんな楽曲です。


5.未来予想図


"世間と自分との溝に針落としてこそ初めて音を奏でるのが俺のHIPHOP”

現在のフリースタイルブームに、いずれは訪れるであろう悲しき未来について歌われた楽曲。以前、ラジオで放送された時から楽曲のテーマは明かされており、聴いてみるまで「おそらくこんなことを歌うのだろうな」と予想はしていたのですが、ひとつひとつの表現、熱量、想いの強さ、その全てが予想を上回り、初めて聴いたときは思わず感動してしまいました。

猜疑心が強い斜に構えた彼だからこそ書けるリリックが魅力的なのですが、後半にかけての彼の決意には大きく胸を震わされてしまいます。そして、その決意に呼応するように繰り出されるパンチラインの応酬は圧巻です。上記に引用したリリック以外でいえば、"残すインスタント(即席)ではない足跡(そくせき)を”というラインも大好きなもののひとつです。意味と音で韻を踏みながら、フリースタイラーとして持て囃されている現在の自分に対する心境を巧みに表現しています。

この楽曲はあくまで"予想”であり、実際これからどんな未来が訪れるかは誰にもわかりません。しかし、どんな未来になったとしても、HIPHOPがこの世から無くなることなんて無いのです。それだけで十分じゃないか。・・・そんな風に、自らに言い聞かせてしまう強がりな私も、これからシーンに訪れる出来事に対し、覚悟を決めて見つめていきたいなと、この曲を聴いて改めて思いました。

◇◇◇◇◇

さて、今回は2/1に発売された話題作Creepy Nutsの【助演男優賞】について書かせていただきました。"前作はEP通して聴くときの軽快さを重視したが、今回は一曲一曲の濃さに拘った”と本作について語っていた本人たちの言うとおり、本作は5曲それぞれに聴き応えを持った、味わい深い作品になっていると思います。

ちなみに、同じ日に発売されたKREVAの新作とは作風も内容も真逆と言っていいほど異なることから、両者を交互に聴いているといつまでも飽きずに聴くことができます。KREVAの新作についても、近日中に書かせていただきたいと思いますので、そちらも読んでいただけたら幸いです。

では、今回はこのへんで。






関連記事

6 Comments

らる  

いつも楽しく拝見しております。
いままさにのりに乗ってるR指定についての
記事もとてもよかったのですが、今度はもう一人いまのりに乗ってる
ガドロについても書いてくれたらうれしいなあなんて思いました。

毎回たのしみにしております!

2017/02/11 (Sat) 11:43 | EDIT | REPLY |   

えもん  

いつも記事楽しみにしております!
チコカリのアルバムのときもそうでしたが、
毎回曲を聴いたあとPto6さんの感想読むと、
曲の理解が深まって、さらに曲に愛着がわきます!
鶴亀もこのブログみて買いました^_^
いつもありがとうございます!

助演男優賞の歌詞のところは「口八丁 with 手八丁」ですよ〜!

2017/02/12 (Sun) 14:44 | EDIT | REPLY |   

Pto6(ぴーとろっく)  

Re: タイトルなし

> いつも楽しく拝見しております。
> いままさにのりに乗ってるR指定についての
> 記事もとてもよかったのですが、今度はもう一人いまのりに乗ってる
> ガドロについても書いてくれたらうれしいなあなんて思いました。
> 毎回たのしみにしております!


らるさん
コメントありがとうございます^^
ガドロについてのリクエスト、いただくのこれで2度めです。本当に人気ですね。

彼について書くとしたら、戦極15章のDVDが出た時の記事でしょうか^^
私はDVDで初めて観ることになるので、どのようなことを書くかはわかりませんが
今から書くのを楽しみにしています^^

2017/02/19 (Sun) 14:05 | EDIT | REPLY |   

Pto6(ぴーとろっく)  

Re: タイトルなし

> いつも記事楽しみにしております!
> チコカリのアルバムのときもそうでしたが、
> 毎回曲を聴いたあとPto6さんの感想読むと、
> 曲の理解が深まって、さらに曲に愛着がわきます!
> 鶴亀もこのブログみて買いました^_^
> いつもありがとうございます!


えもんさん
コメントありがとうございます。
私もブログを書く前まで、アルバムを聴いた後でアマゾンとかの他の人のレビューを読むことを楽しみにしていたので、そのようにいってくださるとすごくうれしいです。ブログをはじめたのも、そのような読み方をされるブログを書きたいなと思ったのがきっかけでしたので^^

> 助演男優賞の歌詞のところは「口八丁 with 手八丁」ですよ〜!

ご指摘ありがとうございます!コメントをいただいてすぐに、記事上の記載を修正させてもらいました^^
こういうご指摘非常に助かります。これからもお気づきの点があれば教えてくだされば幸いです^^

2017/02/19 (Sun) 14:09 | EDIT | REPLY |   

NN  

いつも楽しく拝見してます。

スラムダンクのラインは、一つ前の
「こんぐれえ君の分」=木暮公延
も含めて秀逸すぎですよね。

2017/02/25 (Sat) 23:04 | EDIT | REPLY |   

Pto6(ぴーとろっく)  

Re: タイトルなし

> いつも楽しく拝見してます。
>
> スラムダンクのラインは、一つ前の
> 「こんぐれえ君の分」=木暮公延
> も含めて秀逸すぎですよね。

NNさま
コメントありがとうございます^^

ご指摘いただいたところ、初めて気が付いた時には感動しました^^
そんな風に、まだまだ私が気が付いていない“言葉の仕掛け”がたくさんあるんでしょうね。
Rはリリック書くのにとても時間がかかるといっていたのもわかる気がします。

感性でリリックを一気に書き上げるアーティストもよいのですが
どちらかというと私は、Rのように時間をかけて練り上げたリリックが好きです^^

また、細かい気づき等あれば、教えてくだされば幸いです^^
このたびはコメントくださり、ありがとうございました!

2017/03/10 (Fri) 18:51 | EDIT | REPLY |   

Leave a comment

ブログパーツ