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日本語ラップ・MCバトルの“今”を語るブログ

日本の名盤・基本の定番㉛(BLACK BOX by JUSWANNA)

どうもPto6(ぴーとろっく)です。

ここのところ新譜について書く機会が多くなっていましたが、今回は久しぶりに過去の名作について書いていきたいと思います。今回取り上げる作品は、JUSWANNAの1stフルアルバム【BLACK BOX】です。

このアルバムは本当に素晴らしい作品ですので、きっと思い入れの強い方も多いのではないかと思います。そのため、おそらく多くの場で既に語り尽くされている作品だとは思いますが、本作について私自身が感じていること、想っていることなどについてを、この場では書いていきたいなと思います。

それではいってみましょう。

【BLACK BOX by JUSWANNA】
JUSWANNA 

<収録曲>
1. INTRO
2. Welcome2Tha JW World
3. ピエロスタイル
4. Ready or Not (feat. L-VOKAL & DAG FORCE)
5. Ten Budz Commandments
6. SKIT (4:20)
7. BLACK BOX
8. 東京頭脳戦争 - 時流に媚びない反逆者達
9. 旅は道連れ世は情け (feat. 山仁)
10. サウスパーク
11. SKIT (4:21)
12. Entrance (feat. BES & 仙人掌)
13. 613 (feat. SIDE RIDE & 少佐)
14. ALL NIGHT LONG
15. OUTRO



何度聴き返しても、そのたび感銘を受けてしまう作品ってありますよね。私にとってこのアルバムは、まさにそんな作品です。久しぶりに聴こうかと軽い気持ちで流し始めると、一気にアルバム世界に引き込まれ、そのたび「このアルバムはやっぱり凄いなぁ」と、同じ感想ばかりを繰り返し抱いてしまいます。

でも、その「凄さ」って一体なんなんだろう。私はあるとき、そのようにふと考えてしまいました。そして、その感情について自分なりに紐解いていくと、“凄さ”を感じさせるひとつの要因として、アルバム全体に漂う“隙の無さ”という要素があることに思い当たりました。

まずは、アルバムとしての構成をとってみても本作には隙が見当たりません。本アルバムの冒頭と末尾には、絵画に綺麗な額縁をはめるかの如く【INTRO】と【OUTRO】による丁寧な縁取りが施されています。そして曲間には適宜【SKIT】を挟みながら、アルバムとして、パッケージ作品として過不足の無い完璧な流れを作り上げているのです。そのような作り込まれた構成による心地の良い流れがあるからこそ、プレイボタンを押したが最後、聴き手は終始作り手の思うがままに、どっぷりとアルバム世界へと入り込んでしまいます。

次に、その構成の中に詰め込まれた内容に目を向けてみても、そこにも一切の隙がありません。ひとつひとつの楽曲、そのどれをとってみても、トラック、ラップの両面において、一切のケチが付けられないほどに高いクオリティで作り込まれています。更にそれぞれの楽曲においては、アンダーグラウンド、ストリート、セルフボースト、レペゼン、サンプリング、黒さといったHIPHOPミュージックに求められるあらゆる要素が躊躇なく詰め込まれているのです。

アルバム全体で統一された世界観。心地良い流れをもった構成。各曲の高いクオリティ。溢れるHIPHOP要素。それだけでも名作となるには十分すぎるほどの資質を具えています。しかし、本作はそこからも手を抜きません。名盤と呼ばれるアルバムには欠かせないポイント、クラシックとなり得るキラーチューンの収録も忘れずに用意されているのです。

【BLACK BOX】


“今か今かと待ちわびた奴 今から黙らせたちまち沸かす”

本作ではJUSWANNAにおける2MCの魅力が溢れており、二人それぞれの確立された個性、コンビとしてのバランスの良さ、生み出す相乗効果の妙をしっかりと堪能することができます。

MEGA-Gのラップは、ライムが司るHIPHOPミュージックの規律性に則った、精巧緻密な構成美と調和のとれた形式美を味わうことができます。ひとつひとつのライムが大小異なる歯車の役割を果たし、幾重にも絡み合い連動する様は、最高峰の伝統技術が集結した機械式時計のよう。長い時間をかけ丹念に練られたそのメカニカルな心地良さは、他では味わえない魅力を兼ね備えています。

一方、メシアTHEフライは、規律の枠からはみ出した唯一無二のスタイルが魅力的なラッパーです。ビートに対してオンで乗せるMEGA-Gとは対照的に、オフビートを基調とした変則的なフローにより、彼にしか出し得ない独特な存在感を放っています。吐息から紫の煙が漏れているかの如くアナーキーさが際立ったそのしゃがれ声も、彼の魅力的な要素のひとつです。彼ほど“dope”という形容が似合うラッパーを、私は他に思い浮かべることができません。

そんな黄金比ともいえるほど、魅力的な個性バランスをもった二人。サッカーで例えるなら、MEGA-Gは規律的組み立てを司るレジスタ、メシアは変化とアクセントを与えるファンタジスタでしょうか。そんな二人がタッグを組み、安定感抜群のDJ MUTAが支えるJUSWANNA。そのユニット構成にも、一切の隙は見当たりません。

またこのアルバムでは、そんな二人に負けず劣らない個性を持ったMC達が、客演として多数参加しています。L-VOKALDAG FORCE山仁BES仙人掌SIDE RIDE少佐・・・。本作はそんな個性的な客演達によるバラエティの豊かさも兼ね備えているのです。

【Entrance feat. BES & 仙人掌】


“泡沫の夢 縋る人間の群れ 欲で折れた転ばぬ先の杖”

また、本アルバムを味わう上では、作品の至る所に散りばめられたサンプリング要素を見つけるという楽しみ方もあります。アルバムジャケットに始まり、曲中のフレーズ、トラックの端々に、他作品からの引用が多数見受けられます。彼らのインタビュー記事を読むと、楽曲の長さやBPMにすら拘り意味を付与しているとも語られており、私はそのすべてを見つけだすことに関しては、早々に匙を投げてしまいました。

しかし、なにも意識的に探すことはなくても、ふとした時にサンプリングネタに出会ったり、込められた意味を理解したりといったように、私たちがHIPHOPライフを送っていく上で時間をかけて回収できる楽しい伏線が、この作品には多数忍ばせてあります。そして、そんな強い拘りが反映された、溢れんばかりのHIPHOPへの愛が、この作品には詰め込まれているのです。

【Ten Budz Commandments】


さらに具現化するため選択して進む道は曲がりくねった決して楽じゃねぇコースで加える札束と知識多く蓄える

これほどまでに隙が無い、完成度の高い本アルバム。私はそのあまりの“隙の無さ”に、作品に出会った当初は、どこか“取っつきにくさ”すら感じてしまいました。完成度が高すぎて、真剣に聴きすぎるとどっぷりと疲れてしまうからです。映画でいう【シンドラーのリスト】のような作品だなぁと、その当時感じたことを覚えています。そういう意味では、このアルバムの前に出されたEP【湾岸 SEAWEED】の方が、気軽に聴き返すことができ、耳に馴染むのかもしれません。

私は作品に接するとき、ある本に書かれていた「書物はそれが書かれたときと同じ慎重さと冷静さとをもって読まなければならない。」という言葉を、いつも思い出すようにしています。しかし、このアルバムについて言えば、私はそれができる気が今でも全くしません。その圧倒的なクオリティを前に、作品と向き合うことから、臆病にも逃げ出したくなることすらあります。

それでも、いつかこの作品が持つ“真の凄さ”について理解できるようになりたい。もっともっとこの作品の魅力を味わい尽くしたい。そんな気持ちで、私は定期的にこのアルバムを聴き返してしまいます。焦らず、長い時間をかけて、じっくりと味わっていきたいなと思っています。

既にユニットとして活動停止をしており、メシアに至ってはマイクを置いている状況にある今、彼らの新作を望むことは現実的に難しいことでしょう。だからこそ、私は彼らが最後に残してくれたこの作品を、思う存分味わい尽くしたいなと思っています。幸いなことに、味わい尽くすにはまだほど遠く、今後も長い付き合いになりそうです。本作におけるまだ見ぬ魅力に出会えることが、今後も楽しみでなりません。

では、今回はこのへんで。







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2 Comments

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ジャスワナ サテライト サイドライド イルブロス 各MCのソロアルバム MSC
どの作品も好きです。だからこそライブラに腹が立ちます。

2017/04/15 (Sat) 23:31 | EDIT | REPLY |   

Pto6(ぴーとろっく)  

Re: タイトルなし

> ジャスワナ サテライト サイドライド イルブロス 各MCのソロアルバム MSC
> どの作品も好きです。だからこそライブラに腹が立ちます。

コメントありがとうございます。
私もこの作品を聴いていて、この頃のライブラ作品はどれも凄いなと改めて感じたところでした。たしかに、この作品がいくら売れても正統にアーティストへの対価が支払えないと思うと、やるせないですよね・・・。あの問題がしっかりと決着して、これらの作品がアーティストのもとへ返ることを願っています。

2017/04/22 (Sat) 21:59 | EDIT | REPLY |   

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