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珍しく海外クラシック⑨(Paid in Full by Eric B. & Rakim)

どうもPto6(ぴーとろっく)です。

今回は、久しぶりに海外クラシック作品について書きたいと思います。対象の作品は1987年にEric B. & Rakimがリリースした1stアルバム【Paid in Full】です。

HIPHOP黄金時代において一世を風靡した、言わずと知れたクラシックアルバムですが、今回はこの素晴らしい作品に対して、私が思う魅力や好きなところについてを書いていきたいと思います。

それではいってみましょう。

【Paid in Full by Eric B. & Rakim】
Paid in Full by Eric B. & Rakim 

<収録曲>
1. I Ain’t No Joke
2. Eric B. Is On The Cut
3. My Melody
4. I Know You Got Soul
5. Move The Crowd
6. Paid In Full
7. As The Rhyme Goes On
8. Chinese Arithmetic
9. Eric B. Is President
10. Extended Beat
11.As The Rhyme Goes On radio mix
12.Paid In Full mini madness -the coldcut remix


1980年代後半から1990年代前半にかけての所謂HIPHOP黄金時代。その輝かしい時代において最も重要とされているグループのひとつがEric B. & Rakimです。そんな彼らのデビュー作である本作【Paid in Full】は、誰もが認めるクラシック作品として知られており、過去にはMTVが選ぶ「最も優れたHIPHOPアルバム トップ10 」において、錚々たる作品達を押さえ見事No1に選ばれたこともある作品です。

しかし、今回私がこの作品について書きたい理由は、この作品がそのような歴史的に重要とされている名盤だからではありません。この作品が後世のHIPHOPに与えた影響の大きさや、HIPHOP史における歴史的価値などではなく、純粋にこの作品が、30年経った今聴いてもなお、失われない輝きを放っている素晴らしい作品だからに他なりません。

現在、私たちの音楽の聴き方は昔と比べ大きく変化しました。音楽のデジタル化を経て、今は定額制ストリーミングサービスを用いて音楽を聴くのが主流になりつつあります(私は未だに乗り遅れているのですが)。そこでは、大量の音楽ライブラリが解放され、聴く人たちは好きな曲を好きな時に、自由に聴くことができます。そこには当然、新譜・旧譜も関係ありません。歴史的クラシック作品も、昨日出たばかりの最新作も、謂わば同じ土俵において横並びに扱われることになるのです。

そんな時代において、「歴史的重要作だから」「これは押さえとかないといけない作品だから」という“勉強目的の理由”だけで音楽を聴くのは少し時代にそぐわない気がします。そんな動機で聴いてみても、結局は一聴してみて「こんなもんか」と思うのが関の山でしょう。歴史的重要作なんてものは様々なジャンルにおいて大量にあるわけですし、そうでなくても毎日のようにトレンドを押さえた聴き応えある最新作が次々とリリースされていくのです。

そんな中では、歴史どうこう関係なく、純粋に良いと思う作品を、自分が好きになった作品を聴くことに時間をかけた方が健全であり、いいのではないかなと私は常々考えています。もちろん、そのジャンルを深く楽しむ為に歴史を押さえること、過去のクラシック作品を聴き漁ることは大事ですし、人によっては非常に楽しい作業です。実際に私も昔、そのようなことに夢中になっていた頃がありました。そして、その当時に得たものは未だに、私が今音楽を楽しむ上での大切な財産になっているように感じます。ただ私は、それはあくまで自分の欲求に基づき自発的に行うべきことであり、誰からに薦められてするべきことではないように思うのです。

さて、だいぶ前置きが長くなってしまいました。つまり、私が何を言いたかったかと言うと、「この作品は歴史どうこう関係なしに、最高に素晴らしい作品ですよ」ということ、それに尽きます(笑)私は決して、この作品が歴史的重要作だからという理由でお薦めしたいわけでなく、現在、新旧問わない他の作品と横並びで聴いてみても、新鮮な驚きとたくさんの感銘を与えてくれる愛すべき作品だからという理由で、こうして記事を書かせてもらっているのです。(そして、これまでの海外クラシックシリーズの記事もずっとそれをテーマにして書いてきました。)

それでは、具体的ないくつかの楽曲を通して、この作品の好きなポイント、私が思う彼らグループの魅力について書いていきたいと思います。

【I Ain't No Joke】


アルバム冒頭のこの楽曲から、Eric B.のタイトなビートと、Rakimの卓越したラップスキルが炸裂しており、私は一気に心を鷲掴みにされてしまいます。The J.B.’sの【Pass the Peas】を大胆にサンプリングしたEric B.のトラックも当然見事なのですが、やはりこの楽曲でいうと私は、Rakimの軽快で滑らかなラップの方に耳を奪われてしまいます。

実はRakimは私にとって最も憧れているラッパーのひとりです。ルックス、声、ラップスキル、リリック、そのすべての面で、彼はラッパーとして、私にとっては完璧な存在なのです。もし自分がアメリカに生まれ、ラッパーを志すとしたら、彼のようなラッパーになりたいと思っていたに違いありません。ちなみにこのアルバム以降も、彼のラップは進化し続け、後に“HIPHOP至上最も影響力を持ったラッパー”という(またも「歴史的に」意味を持った)称号が掲げられるわけですが、そんな彼の比類なきスキルと才能が、デビュー作のこの頃から極めて非凡なものだったということがわかりますよね。

Rakimはサックス奏者としての経験があり、そこでの演奏テクニックやノウハウを反映させたと語られる彼のラップ・フローは、メロディアスでありながらもリズミカルで、“音”の一つとして心地よくビートと絡み合っていることを感じ取れます。リズムを細かく刻み、そこに多彩なライムを組み込むことで生まれる流れるようなフローは、ジャズ・ホーン奏者におけるソロフレーズのような趣を帯びていますよね。そんな計算に基づいた、知性溢れる彼のラップが私は堪らなく大好きなのです。

【I Know You Got Soul 】


この曲は先程とは逆に、とにかくEric bのビートばかりを耳で追ってしまうという楽曲です。私にとってこの楽曲のビートは、本アルバム中はもちろん、全てのHIPHOPトラックの中においてもトップクラスに位置するほど大好きなビートです。Bobby Byrdの【I Know You Got Soul 】から特徴的なベースラインをサンプリングし、それを中央に据えたシンプルなビートなのですが、シンプルがゆえに、何度ループしても飽きがこない恒久的な魅力を具えているように思います。

前面にでているベースラインももちろんこのビートの魅力なのですが、個人的には、その後ろで軽快にリズムを刻むドラムの音が、これ以上ないほど魅力的に感じます。タイトなスネアとハイハット絶妙な配置のバスドラム、なにより4小節毎に入る華麗なタム回しが本当にクセになり、そのループが巡ってくるたび身体中が高揚感に包まれてしまいます。そしてその繰り返しを、何度も何度も楽しみにしてしまい、ビートにばかり耳を傾けてしまうのです。

Eric B.トラックの特徴のひとつである、随所に入れられるスクラッチも、この楽曲ではリズム感を高める上で効果的に機能しているように思います。Eric B.のトラックを初めて聴いた頃は、そのスクラッチの多さと若干のぎこちなさに戸惑いを覚えたこともあったのですが、慣れてくればそれも“ご愛嬌”として徐々にクセになってきます(笑)

【Paid In Full -the coldcut remix】


アルバムタイトル曲として、彼らの代表曲のひとつとして有名な本楽曲ですが、アルバム本編に収録されているオリジナル版より、ボーナストラックとして収録され、MVも作られているこのremix版のほうが知名度が高いように思います。私はオリジナル版のトラックも大好きなのですが、冒頭の掴みやゴージャスな構成など、このremix版の方が人気となる理由も、聴いてみるととてもよくわかりますよね。有名どころのサンプリングネタとしては、Dennis Edwards【Don’t Look Any Further】のベースラインが使われています。

この楽曲では、Rakimのリリックにおける魅力についても堪能することができます。Kダブシャインも以前、ラッパーを志すうえでの多大なる影響を本楽曲のリリックから受けたと語っていました。今ではクラシックとして多くの曲でサンプリングされている、印象的な導入ライン“Thinkin' of a master plan”から始まるこの楽曲のリリックは、虚勢を張ってでも自身を大きく見せる傾向にあるラッパーのリリックとしては珍しく、自身の弱い部分も含め、赤裸々に語られていきます。参考までに、ネットで見つけた秀逸な和訳リリックを下記にてご紹介致します。

“マスタープランを練ってみる 
なぜなら、握っているのは手のひらの汗だけ 
ポケットの中を探ってみる
金はすべて使っちまった 
もっと奥を探ってみるけど
出てくるのは糸クズだけ 

だからオレはミッションを開始した 
家を飛び出し
どうやって金を手に入れるか考える 
金がいるんだ、オレは昔は悪ガキだった 
だからオレがやってきたずる賢いこと
全てを思い出してみた 

ある場所に現れては盗みを働いていた
面白いことなんかじゃない 笑うのは止めろ
じっとするんだ
金だけが人の心を動かすんだ 

だがオレは稼ぐことを学んだ
なぜならオレは賢いからだ 
気分がいいぜ、オレはたぶん 

9時5時の仕事を探すだろう
真面目にやれば 
生き続けることができるかもしれない 

で、オレは口笛をふきながら
ストリートを歩く 
でも場違いな感じがするんだよ
なぜならやっぱり ペンとペーパー
ステレオ、オレとEric B.のテープ 
オレの好物の大盛りの
フィッシュ・プレートが懐かしい 

だけど金がなきゃ
ただの願望でしかありえない 
なぜなら、オレは
金を稼ぐのを夢見るのは嫌いなんだ 

だからオレは
自分が作ったライムのノートを掘り下げて 
自分が今でも力を持っているか試してみる 
スタジオに行くんだ
なぜならオレは十分な金をもらったからな”

本来、海外アーティストのリリックは、オリジナルの英詞を読まなければ良さがわからないものが多いのですが、この楽曲のリリックについていえば、日本語の意訳を読んだだけでも、そのリリカルな表現と描写力に富んだリリックの一端を堪能することができます。それと同時に、Rakimのラップに対する想いや考え方に触れ、自然と背中を押されるような前向きなメッセージを、私は受け取ることができました。

和訳を読んで興味を持たれた方は、是非とも英詞も読みながらこの楽曲を追ってみることもお薦めします。細かい表現の巧みさ、ライムの置きどころなど、多くの発見による感動が得られることと思います。月並みではありますが、私はやはりフック部分の“Just search for a 9 to 5 If I strive then maybe I’ll stay alive”における、ライムを織り交ぜた巧みな表現に感銘を受けました。このラップパートが短い一曲を聴いただけでも、Rakimのリリックにおける妙味を十分に味わっていただけるのではないでしょうか。

◇◇◇◇◇

上記に書いた楽曲の他にも【My Melody】【Eric B. Is President】などこのアルバムには名曲がずらりと収録されています。Eric BのInst曲がいくつか挟まれたアルバム構成となっており、それらの中には少しばかり古臭さを感じてしまうものも無くはないのですが、Rakimのラップが乗った楽曲達についてはどれも文句なしに素晴らしい楽曲達ばかりで、総合すると一枚通して聴く価値のある素晴らしい作品だと私は思います。

素晴らしいHIPHOPアルバムをお探しな方で、本作をまだ聴いたことがない方は、是非とも聴いてみてください。“歴史的名盤”という肩書がたとえ無くてもいつまでも色褪せない、良質で純粋なHIPHOPに出会えるのではないでしょうか。

では、今回はこのへんで。





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