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新作音源に小さく貢献㉔(軌跡 by DJ KRUSH)

どうもPto6(ぴーとろっく)です。

今回は、先日発売されたDJ KRUSH初のラップアルバム【軌跡】について書きたいと思います。

アルバムの速報が流れたときから、参加メンバーの豪華さが話題となっていましたが、実際に出来上がった作品を聴いてみても、バラエティに富んだ個性的なラッパー達がよくぞこれだけ一堂に会したなぁと改めて感嘆してしまいました。

それでは、本作を聴いた私の感想や好きなポイントについて書いていきたいと思います。

【軌跡 DJ KRUSH】
軌跡 DJ KRUSH 

<収録曲>
01. Intro 
02. ロムロムの滝 feat. OMSB
03. バック to ザ フューチャー feat. チプルソ
04. 若輩 feat. R-指定 (Creepy Nuts)
05. 裕福ナ國 feat. Meiso
06. 夢境
07. MONOLITH feat. 呂布カルマ
08. Dust Stream feat. RINO LATINA ll
09. 誰も知らない feat. 5lack
10. 結 ―YUI― feat. 志人


遅めのBPMで鳴らす重厚な音世界、想像力を掻き立てるドラマチックな展開。派手さとはかけ離れた“いぶし銀”の渋さ溢れるそのドープな音像は、かつて“トリップホップ”と称され世界規模で旋風を巻き起こしました。そして今でも現役で世界に股をかけ活躍する生きる伝説DJ KRUSH。その凄みは未だに留まることを知らず、ソロキャリア25周年を記念に作られた今作を聴いてみても、その進化の歩みが決して緩んでいないということを改めて実感することができます。

DJ KRUSHにとって自身初となる『ラップアルバム』。それをこのタイミングで、しかも日本のラッパーだけを集めて形にした理由について問われると彼は、“自分が大好きな日本語ラップを世界に”という原点回帰であり、また、成熟した日本HIPHOPシーンにそれを担えるだけの役者達が十分に揃ったからだと語っていました。

そして実際にこのアルバムに集められた8名のラッパーには、8人8色の個性を持った実力派のタレント達がずらりと揃いました。冒頭Introにおける第一声で「2017」とわざわざ告げられているとおり、今この時に選ばれる必然性をもった、国内屈指の旬なラッパー達が選ばれています。それは私にとっては本当に嬉しい、大好きなラッパー達ばかり。なにより、このメンツをかのDJ KRUSHが選んだという事実に、思わず胸が震えてしまいます。

そんなラッパー達を選んだ基準について、DJ KRUSHはいくつかのメディアにて答えていますが、「個性的で自分にも刺激を与えてくれるラッパー」、「ラップの内容があって、フロウも良くて、独自の個性を持っているラッパー」など、それらはどれも当人達が聞いたら大喜びしそうなものばかり。さらには「こいつの背景を作りたいと思えた人」という言葉もあり、改めてDJ KRUSHの日本シーンへの深い愛情を感じることができました。

そして、その選ばれた8名はというと、DJ KRUSHからの厚い信頼と高い期待にバッチリと応え、それぞれが最高のパフォーマンスを発揮しています。どのアーティストもドープで奥深いDJ KRUSHのトラックと呼応するように、自身の作品の時には違った一面、更に深い階層の側面を我々に見せてくれています。各々が競い合うような、そしてDJ KRUSHのトラックへ持ちうる力を総動員して挑むような、そんな独特の緊張感、いい意味での張り詰めたテンションが、この作品の尊厳なる空気感を作り上げています。

とにかく、各々がDJ KRUSHのトラックの上で抜群の輝きを放っています。ここでは、そんな素晴らしい8名の楽曲について、一言ずつ感想を書かせていただこうと思います。

◇◇◇◇◇

■OMSB 【ロムロムの滝】 
“Tribeに言わせりゃ Can I Kick It”

OMSBの纏うアンダーグランドな空気感と、DJ KRUSHのドープな世界観が自然とマッチした楽曲。たとえOMSB自身のアルバムの中にこの楽曲が登場しても、まったく違和感を感じないかもしれません。このトラックは、OMSBが作るトラックを彷彿とさせるような変則的なビートの配置がなされており、それによりOMSBが普段通り気持ちよくラップをしている印象を受けます。KRUSHはそれぞれのラッパーの特性や個性をよくわかっているなぁと感じますよね。ちなみにフックにおけるA Tribe Called Questの上記のラインに対しては、それを受けてKRUSHが後から【Can I Kick It】のサンプリング音を加えたそうです(2フック後の部分)。そのやり方においても、後付けであるにも関わらず“取って付けた感”が全くなく、自然とトラックと溶け込み、重要な一部とまでなっており、改めてDJ KRUSHの芸の細かさとトータルプロデュース力を痛感させられてしまいました。



■チプルソ 【バック to ザ フューチャー】
“あの成人の日から11年後 DJ KRUSHからCall そしてこのナンバー”

渡されたトラックに自身のラップを乗せるだけでなく、DJ KRUSHに対しビートの再構築等の具体的提案も行ったというチプルソ。トラック製作から何からを全て一人でこなせる彼らしい、確立された独自の感性と強い拘りを感じますよね。時にビート以上にリズミカルなアクセントを作る出色のラップを繰り出すこの曲の彼は、まさに音楽の権化のよう。タイトルの通り、ミュージシャンとしてのこれまでのキャリアを過去からどんどんと辿ってくる楽曲構成になっていますが、最後のDJ KRUSHから今回の依頼がきて、この曲に至るというオチが見事で、本当に過去から今この時まで戻ってきた感(まさにバック to ザ フューチャー!)を味わうことができます。途中、チプルソが影響を受けたと思わしき具体的アーティスト名が多数登場する部分も、聴き応えがあって大好きです。



■R-指定 (Creepy Nuts) 【若輩】
“先人の足跡 コロンブスの卵 無論クズの戯言でおままごと”

自身でもインタビューで語っていましたが、このアルバムに呼ばれたラッパーの中で唯一“オーバーグランドに近いところ”で活躍するラッパーであるR-指定。楽曲中のリリックにもありますが、彼のその“歪さ(=個性)”は、他のラッパーとこのように並べられることによって改めてありありと実感することができます。この曲を聴いていて、R-指定のリリックの特徴は、抽象的な表現ではなく、あくまで体験した具体的な事象や物事を積み重ねて世界観を構築していくところにあるんだなぁということを再確認することができました。DJ KRUSHに「彼は一曲じゃ収まらない、他のトラックでも一緒にやってみたい」とまで言わしめたそのポテンシャルの高さは既に折り紙付きです。この楽曲において、あえてCreepy Nutsとは違う新たなテーマで挑戦したR-指定が、今後のキャリアにおいてこの経験をどのように活かしていくのか、そしてどのように進化していくのかが、今から楽しみでなりません。


■Meiso 【裕福ナ國】
“この裕福ナ國じゃ 底なし沼につま先立ちする民”

これまたMeisoのオリジナル作品かと見まがうほどに、トラックとラップが自然とマッチした楽曲。DJ KRUSHとMeisoについていえば、グローバルな視点を音楽によって共有できるという点においても、抜群の相性の良さを感じますよね。相変わらずの深い詞の世界観痛烈なる社会風刺のメッセージを内包したそのリリックは、まさに外(海外)に拠点を置く彼ならではの視点、“外から見た(客観的にみた)現在の日本”というものを感じます。“外じゃ戦争 中じゃ崩壊”。まさにその通りですよね。中にいるだけだとあまり気づかない、中と外、そのどちらからでも日本を見られるMeisoだからこそ書けるリリックだと思います。そしてそのリリックを引き立てるシリアスなトラックも絶妙ですよね。“裕福ナ國”という皮肉が寂しく宙を舞い、それに対して何か激しい憤り感じずにはいられなくなってしまう、そんなパワーを帯びた楽曲です。



■呂布カルマ 【MONOLITH】
“無造作で絶妙な配置美しいだろ 見たもん見たまま話す難しさよ”

互いが持ち合わせるドープな空気感が絡み合う刺激的な楽曲。言葉の強度とオリジナリティに定評のある呂布カルマですが、この楽曲では、これまでの彼のどの楽曲と比べても劣らないほどその言葉が冴えわたっており、DJ KRUSHの極上のトラックに対し、現在彼が持ち得る全てをぶつけてきたというような、本気の覚悟のようなものを感じとることができます。自身のキャリアにおける重要な楽曲、まさにクラシックを作りにきたという気概を感じます。そんな呂布カルマの魂の入った言葉に対し、DJ KRUSHも細部にまで至る巧みなる施しでもって応えています。声の被せ方、反響のさせ方、隙間を埋める音使いに至るまで、ラップを、呂布カルマの言葉を、最高の形で響かせる為に尽くされた細かい施しの数々には思わず息を飲んでしまいます。ちなみに細かいところですが、私はこの楽曲の締めを飾る音使いがとても好きです。



■RINO LATINA ll 【Dust Stream】 
“BUDDHA、ギドラ、ソウスク、RHYMESTER 皆ライバルで火花散らしては”

このアルバムにおける唯一のベテラン勢がこのRINOです。これまでもその長いキャリアの中で、幾度となく楽曲共演を果たしているこの二人だけあって、他のラッパーでは出すことのできない絶妙なコンビネーション、抜群の相性の良さを感じとることができます。長年のコンビならではの息の合わせ方、お互いを良く解り合っているからこその引き立て方。そういう意味では、やはりこのアルバムの中でこの楽曲が、最も相乗効果が発揮されている楽曲のように思います。それにしても、いつまでも衰えないRINOのラップの輝きは何なのでしょうね。最初にシーンに登場した時はそれこそ唯一無二の存在であった彼ですが、その後フォロワーが出現し、彼のようなラップスタイルは現在では決して珍しいものではなくなりました。しかし、それでもやはり彼のラップを聴く度に、彼からしか感じ得ない魅力を今でも感じてしまいます。ベテランだからこそ書ける昔の日本HIPHOPシーンの描写にも胸が熱くなってしまいますよね。


■5lack 【誰も知らない】
“君の知らない人が君の中にもいる”

奇抜なベースラインがリズムを構築する、いかにも乗りにくそうなトラック。それを涼し気に乗りこなして見せるのが、やはり5lackというラッパーです。このトラックを彼にあてがったKRUSHの気持ちもよくわかりますよね。“先人の道は通らない主義”とリリック中でも語っている通り、誰の型にもはまらず、自分自身のスタイルで前人未到の頂を目指す彼のスタンスが、この曲でもよく表れています。5lackは新曲が出るたびに、その進化に驚かされるラッパーですが、この楽曲においても、少し前と比べまたひとつ階段を登った彼の姿を見つけることができますよね。“USの最新フローを取り入れる”なんて生ぬるいものではなく、彼にしか出せないオリジナリティが更に深堀されたような・・・。彼の楽曲を聴いていると、いつもそのような底知れぬワクワク感に包まれてしまいます。



■志人 【結 ―YUI―】
“雁字搦めな時間軸の管理下から離れ肝心要の担子菌類の酵母と攻防戦を繰り広げる微生物の暴動”

これだけの個性的なメンツを連続して聴いた後にでも、誰とも被らない強烈な印象を聴き手に残せるラッパーは、おそらく彼を除いてはいないでしょう。圧倒的な勢いで降り注ぐ言葉の雨に打たれ、我々リスナーは呆然とただそれを受け入れることしかできません。そして楽曲が終わり、ずぶ濡れになった自分の姿を捉えた時、そこに、以前にはなかった自分自身の何かしらの変化に我々は気づくことになるのです。そんなある意味“天災”のようなパワーを内包したラップを、この楽曲においても志人は手加減なしに繰り出しています。その言語的情報量の多さは、一度や二度で咀嚼しきれるものではありません。数珠つなぎのように連続して放たれる言葉の連鎖、それはいつしかイメージとなり、映像となって我々の脳に映し出されていきます。それを見た時、何も感じない人なんて存在しないのではないでしょうか。“唯一無二”とは彼の為にある言葉だということを、改めて痛感させてくれる楽曲です。


◇◇◇◇◇

さて、本アルバムに参加した8名すべての楽曲ついて書かせていただきました。ラップにおいては“リリックの内容”に拘ると語っていたDJ KRUSHが選んだメンバーだけあって、どの楽曲においてもリリックが聴き応えがあるものばかりです。R-指定曰く、DJ KRUSHのトラックには“ラッパーの新しい言葉を引きだす力”があるのだとか。是非ともそのリリックに耳を澄ませ味わい尽くしてほしいアルバムです。

アルバムにはその8曲に加え、DJ KRUSHが手掛けたIntroとインスト曲が1曲収録されています。このインスト曲【夢境】も実に秀逸で、KRUSHならではのストーリー性を孕んだドラマチックな展開力が遺憾なく発揮されています。これだけ優れたラッパー達の楽曲に挟まれても見劣りしないほど、ある意味では最も“雄弁な”楽曲といえるのではないでしょうか。

ちなみに、本アルバムのリリースパーティはアルバム発売に先駆け既に開催されています。そこでは、RINOを筆頭にアルバムメンバーで【証言】を披露するなど、盛りだくさんの内容だったそうです。(R-指定と5lackが参加できなかったのが実に勿体ない!)

【証言@軌跡リリースLIVE】


さて、今回はDJ KRUSH初のラップアルバム【軌跡】について書かせていただきました。聴けば聴くほどその世界観に引き込まれ、新たな発見を見つけては深い感動に包まれる、そんな奥深い魅力を備えた素晴らしい作品だと思います。是非とも世界中の多くの人に聴いていただきたい作品です。まだ聴けておらず、興味をもった方がいらっしゃれば、DJ KRUSHのオフィシャルサウンドクラウドにて全曲視聴もできるようですので、試しに聴いてみてください。

それでは、今回はこのへんで。



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2 Comments

IDECCHI51  

マニアアックだけど結構注目な記事かな~。

∀・)実は注目していた作品。若輩は聴きましたが、聴きごたえ抜群でしたね。日本って海外に負けないぐらい有能なトラックメーカーが多いイメージですけど、彼は特にHip-hopにおいて指折りの実力者なんじゃないかと思います。素人ながらの感想ですけども(汗)

2017/08/03 (Thu) 01:48 | EDIT | REPLY |   

Pto6(ぴーとろっく)  

Re: マニアアックだけど結構注目な記事かな~。

> ∀・)実は注目していた作品。若輩は聴きましたが、聴きごたえ抜群でしたね。日本って海外に負けないぐらい有能なトラックメーカーが多いイメージですけど、彼は特にHip-hopにおいて指折りの実力者なんじゃないかと思います。素人ながらの感想ですけども(汗)

IDECCHI51さん。
連投でのコメントありがとうございます^^
KRUSHのアルバムについては全部は聴けていないのですが、世界で通用する音とはこういう個性をもったトラックなんだぁと、いくつかのアルバムを聴いただけでも感じました。是非とも今後もどんどん日本のHIPHOPを引っ張っていく存在であり続けて欲しいですよね^^

2017/08/05 (Sat) 18:06 | EDIT | REPLY |   

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