新作音源に小さく貢献㉙(柴又日記 by ZORN)

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どうもPto6(ぴーとろっく)です。

今回は、豪華リリースラッシュ第三弾としてZORN【柴又日記】について書きたいと思います。前作から1年空けずのリリースとなった今作でしたが、ZORNの公私における現在の充実感をありありと感じ取れる、そんなアルバムになっています。

それではいってみましょう。

【柴又日記 by ZORN】
柴又日記 

<収録曲>
01. 男はつらいよ(Intro) [Track Produced by GEBARA]
02. いい感じ [Track Produced by OMSB]
03. 春の風 [Track Produced by Yakkle]
04. コメダ [Track Produced by dubby bunny]
05. 矢切の渡し(Interlude) [Track Produced by dubby bunny]
06. 黄昏ミゼット feat. WEEDY [Track Produced by dubby bunny]
07. 回想列車 [Track Produced by STUTS]
08. かんおけ [Track Produced by O.N.O(THA BLUE HERB)]
09. ゆりかご [Track Produced by Calm]
10. 柴又の夕焼け [Track Produced by Yakkle]



前作【生活日和】から10か月ちょっと。アルバムジャケットからもその共通点が見受けられるように、前作で確立させたZORNのスタイルと作風をそのままに、そこからの地続きとも言える続編的なアルバム【柴又日記】がこのたび発売されました。相変わらず平凡ながらも幸せな日常生活があくまで等身大に、そしてキラキラと描かれており、前作が大好きだった私にしてみると、とてもすんなりと受け入れることができた作品でした。

アルバム全体から感じる作品としてのパワーや総合力は、スタイルを明確に打ち立てた前作【生活日和】の方が(個人的には)高いように感じましたが、ひとつひとつの楽曲は前作の楽曲達にも勝るとも劣らない高いクオリティと眩い魅力を纏っています。特に、今作の肝となるZORN家に訪れた“生と死にまつわる出来事”について歌われた楽曲たち【かんおけ】【ゆりかご】は、これまでのZORN史上においても最高級の輝きを放っているように私は感じました。

そういう意味では、今作は後半に据えられたこの2曲を中心に構成されたアルバムと言っても過言ではないのかもしれません。“非日常”の出来事を歌ったこの2曲を際立たせる上で、その他の楽曲で歌われている何気ない“日常”の描写たちが効果的な役割を担っています。そしてその2曲の後に添えられたラストソング【柴又の夕焼け】で再び“日常”へと戻っていくという構成も実に見事ですよね。それはZORNの、そして私たち人間の生活/人生そのものの構成でもあるのです。

そのような構成を捉えてみると【柴又日記】というタイトルは実に示唆に富んでいて秀逸ですよね。この作品は、柴又に住むひとりの男のあるがままの日常を描いた“日記”でありながら、それを聴いた私たちは、その単なる“日常の連なり”の中にこんなにもドラマチックな要素が含まれているということ、そしてその日常の絶え間ない堆積が私たちの“人生そのもの”であるということに、改めて気づかされることになるのです。

もし、この作品に“生と死”を連想するような仰々しいタイトルが付けられていたとしたら、ここまでの感動は得られないのではないでしょうか。この作品はあくまで、呼吸をするようにラップするZORNが、あるがままの日常を綴った日記的なアルバムとして提供されているのです。しかしそのことにより、この作品で歌われている“生と死”に関する感動的な要素が、なにも特別なことではなく、あくまで“日々の生活の中での出来事”であるということがよりわかりやすく提示され、私たちにその事実を自然と受け入れやすくさせているのです。そして私たちは、ZORNの日常を通して、自らの日常にも溢れる美しい輝きや感動に改めて気づくことができるのです。

それでは、そんな本アルバムの中心的な楽曲【かんおけ】【ゆりかご】について改めて書いていきたいと思います。

■かんおけ


“明日のことなんてsiriも知りもしねぇ でもまだ未来は俺等の手の中”

アルバムに先行してMVも公開されたリード曲【かんおけ】。初めて聴いた時はとにかくとてつもないインパクトを受けました。心を揺さぶる強いメッセージ性を内包したリリカルな表現と、思わず唸ってしまう程のスキルフルなライミング。様々な個性をもつラッパー達が出現し、趣向を凝らした楽曲が日々提供されている、ある意味で“耳の肥えた”現在において、一聴しただけでこんなにも衝撃を与えられる楽曲を作ることができるなんて。正直そのことにとても感動してしまいました。前々作の【My life】、前作の【Letter】に続き、ZORNはアルバムを出すたびに目玉となる話題の楽曲をしっかりと提供してくれていますよね。

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トラックは、THA BLUE HERBのトラックメイカーO.N.Oによる提供というのもたまりません。ドラマチックな展開が見事な深遠なる音世界。昔からTHA BLUE HERBから受けた影響の大きさを語っていたZORNにとっても、本楽曲は待望の共演なのではないでしょうか。“未来は俺等の手の中”という引用や、BOSSもよく口にするNasのリリック“眠りは死のいとこ”を彷彿とさせる“生も死もきっとご近所”等のリリックからも、THA BLUE HERBへの多大なるリスペクトを感じることができますよね。THA BLUE HERBと組む以上、名曲を作ることは至上命令と言わんばかりのZORNの気概と本気度を感じさせられます。そして本当にこれほどの名曲を作れるのですから、やはりZORNの才能は凄いとしか言いようがありません。


■ゆりかご

“今日からうちは三姉妹 オムツ代稼ぐパンチライン”

前曲【かんおけ】で語られた死との対比として、生命の誕生について歌われた楽曲【ゆりかご】。先月ZORNが初めて立ち会った娘の出産時の描写、そしてそのとき湧き上がった父親としての感情が、自身の飾らない言葉によって紡がれていきます。しかし、これまで何についても雄弁にラップしてきた表現力に富んだZORNでさえ、その瞬間の感動については“言葉にできない”としか表せていないのも、去年同じように出産の立ち合いを経験をした私としてはとても共感することができました。そして、言葉の代わりに空白を埋める美しい旋律が、言葉以上に雄弁にその感動を物語っているように感じます。本楽曲のトラックは、チルアウトミュージックの先駆者である世界的トラックメイカーCalmによるものです。これまた【かんおけ】のO.N.Oとの対比が際立っていますよね。

この曲を聴いていて私は、ZORNはもしかすると現在最強のラッパーなのかもしれない、という感情がふと湧き上がってきました。彼はこの楽曲のように、現在の平凡な生活を通して感じた一般の人達でも深く共感できる普遍性あふれる事柄についても歌うことができます。そしてその反面、所謂HIPHOP的なストリートにおける事柄についても過去の経験を持ち出せば歌うことができ、更にはMCバトルで名を上げた経験を通してアングラ的なマインドについても歌うことができます。とにかく他のラッパー達と比べても歌うことができる守備範囲が広いのです。そのうえ、フリースタイルもラップのスキルもピカイチで、LIVEも音源もカッコ良く、シーンにおける同業者/リスナーからの支持も厚い。そのように文句のつけようのないほどの資質を、現在のZORNは全て具えているのです。

ZONE THE DARKNESS時代のようにラッパーとして昇りつめる野心を出さず、現在は家族の為、幸せな家庭を守る為にラップを繰り出しているZORN。しかし、時代が、シーンが、そんな無欲な彼を押し上げ、頂きの席へと座らせる日も、もしかしたら近いのかもしれませんね。

◇◇◇◇◇

さて、今回は先日発売されたZORNの【柴又日記】について書かせていただきました。これにて、3週連続でお送りした、その週に発売された新譜について紹介するという『リリースラッシュ記事』は終わりにしたいと思います。正直なところ、9月上旬があまりに豪華リリースラッシュだった為、書けていない作品の中には、他の月に発売されていたら記事を書いていただろう注目作も多数あったのですが、それらをすべてタイムリーに書くことができなかった為、今回はこの三作品についてのみ書かせてもらいました。この期間に聴いた他の作品達については、別の機会で何らかの形で書くことができたらと思っています。

そして、この記事をもって本ブログは2か月程度のお休みに入らせていただきたいと思います。これは今年の初め頃から想定していたことではあるのですが、私のプライベートにおいてしっかりと腰を据えて取り組まなければいけない事柄があり、それに傾注するために本ブログの更新も休ませていただくことにしました。更新の再開は11月下旬頃を予定しています。

その間、これまた注目の新譜リリースが多数あるので、それらの作品についてタイムリーに記事が書けないことに対する残念な気持ちはあるのですが、それらについても記事には書けないものの、聴いて楽しむことはしていると思いますので、ブログを再開する際には、遅ればせながらそれら作品についての記事も書かせていただければと思っています。

本来、ブログ更新についてこのように改めて予告する必要もないのかもしれませんが、ブログ開設以降コンスタントに(遅くとも2週に1度程度のペースで)更新していたこれまでのことを踏まえると、定期的にブログを覗きに来て下さる読者の方々へのせめてもの配慮と誠意の表し方として、あらかじめこのようにお伝えをさせていただこうと思った次第でございます。ブログ再開時にもまた読んでいただければこの上ない幸いです。

それでは、今回はこのへんで。


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