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名曲の提供③(My life by ZORN)

どうもPto6(ぴーとろっく)です。

今回は、“私的”名曲の第三弾をお送りしたいと思います。実はこのシリーズ、毎回次はどの曲について書こうかと考えるのがとても楽しい時間です。出来る限り選曲に幅を持たせたいと思っていますので、今回も、前回までから趣向を変えて、今年発表されたばかりの名曲をご紹介しようと思います。

今年発売された<ZORN>の最新アルバムに収録されている楽曲【My life】です。

それではいってみましょう。

【My life by ZORN】


“洗濯物干すのもHIPHOP”

タイトル通り、ZORN自身の何気ない等身大の日常を切り取った楽曲です。この楽曲でプロデューサーに抜擢された<DJ OKAWARI>はもともと「音楽と日常の共存」というテーマを掲げて活動しているので、まさに得意分野といえる今回のトラックは澄み渡るほど美しく、ZORNの紡ぎだす些細ながらに幸せな日常を鮮やかに表現しています。

“題名なんてついてない日”の連なり、“繰り返しの生活”が私達の日常です。そんな“何にもいいことなんて無い”日々の中にふと噛みしめる“言葉にできない感謝に愛”。仕事からクタクタになりながら帰ってきて、家族と他愛のない話をして、日曜日を待ちわびながら一週間を乗り切る。そんな誰の生活にも溢れている“日常”を鮮やかに切り取り、自身の生活にあふれる“ささやかな幸せ”に気づかせてくれる、そんなリリックだと思います。

ZORNは若かりし頃<降神>からヒップホップを聴き始め、<THA BLUE HERB><Shing02>と文学性の高いアンダーグラウンドなヒップホップアーティストにハマっていったそうです。ZORNの巧みな情景描写リリックにおける韻の硬さは、それらのアーティストから影響を受けているのだと思います。この楽曲でも冴え渡っていますね。

この楽曲は3バース構成となっていて、それぞれ日常における別のテーマが歌われています。1バース目は「仕事」、2バース目は「家族」、そして3バース目は「音楽活動」です。つまりは、「やるべきこと」「守るべきもの」、そして「やりたいこと」です。

私は、この楽曲の肝はこの3バース目だと思っています。この楽曲をありふれた“日常謳歌ソング”にせず、「君はこのままでいいんだよ」というような、ありきたりなメッセージを送るに終始させていないのは、この楽曲に3バース目があるからだと思っています。

「やるべきこと」「守るべきもの」があり、毎日クタクタになりながら生活している、そんな中でも「やりたいこと」を諦めず、「やるべきこと」と「守るべきもの」を決して疎かにすることなく続けている。そのことがこの楽曲が描く“日常”に鮮やかな彩りを与えていると思います。この「やるべきこと」「守るべきもの」「やりたいこと」が3者バランスよく成り立っていて、お互いいい意味で影響を与え合い、理想的なサイクルが廻っている。この楽曲が描く日常が美しく聴く者の胸に響くのは、きっとそのせいではないでしょうか。

この楽曲を聴いた人は1・2バース目で共感を得た後、3バース目で不意に問われることになるのです。「貴方はやりたいことをやれていますか?何気ない日常を言い訳に、諦めていませんか?」と。この楽曲はただ何気ない日常を肯定するだけの曲ではありません。「やるべきこと」をしっかりやること、「守るべきもの」をしっかり守ること、それは大変なことだし、とても立派なことです。そのことについても、この楽曲ではしっかりと肯定されています。しかし、そこにプラスして「やりたいこと」も諦めないこと。それがこの楽曲の一番のテーマであり、聴くものに伝えたい事ではないかと私は思います。

この楽曲を聴いて問いただされたリスナーは、きっと“自分なりの3バース目”を探す努力を始めるでしょう。ZORNは自分の充実した“日常”を等身大で描くことで、直接的ではなく間接的にそのことを訴えかけ、優しく背中を押してくれるのです。私がこの楽曲からいつも力をもらえる理由は、きっとそんなところにあるのだと思います。まさにあらゆる人の“素晴らしい人生”を応援する楽曲ではないでしょうか。

さて、ZORNは現在の<昭和レコード>に所属する前までは<ZONE THE DARKNESS>という名を使っていました。MCバトル好きの間では、きっとまだこちらの名の方が広く知られているのではないでしょうか。その名義での代表曲といえば、やはり【奮エテ眠レ】でしょう。実は今回の【My life】は、この過去の自身の楽曲に対するセルフアンサー曲としての意味も持っていると思います。双方の楽曲の中に「作業着」「成功者」等の共通するワードを入れていることからも、そのことが推測できます。

【奮エテ眠レ by ZONE THE DARKNESS】


この2曲を聴き比べると仕事と音楽に対する考えが大きく変わっていることがわかります。【奮エテ眠レ】では、HIPHOPで乗し上がるその時までの食いつなぎとして仕事をしているという印象を受けますが、【My life】では上記したように生活の一部としての仕事と音楽活動を受け入れており、そのことに幸せを感じています。ファンの中には、【奮エテ眠レ】の頃のギラギラした彼が好きだという方もいるかと思いますが、私は成長を遂げた人間味溢れる今のZORNが好きです。

ZONE

20歳までに3回逮捕され少年院を経験したZORN。少年院から出所してからは父親の建築関連会社に務め、現在週6で働いています。「安定したい。健全と過ごしたい。」とヒップホッパーらしからぬ発言を憚らない彼は、きっとこれまでの失敗の多かった人生経験を元に人間として一番大切なことを学んだのでしょう。彼は昔インタビューでこんなことを語っています。

「結局、普通に働くのが一番大変だし、普通に暮らすことが一番大変だし、でもそれが一番幸せな気がします。」

そして、こうも続けます。

「前は、普通のサラリーマンの人とか、だっせーなって思ってたけど、今はいやいや違うって。何十年も満員電車で通勤して、マイホーム買えるって、立派ですよね。ストリートよりよっぽどサバイブしているっていうか。」

“普通”であることの大変さと、“普通”であり続けることに対する大きな敬意、彼の根底にあるそんな人々に対するリスペクトの気持ちが、今回の楽曲でも大いに表れていると思います。そして、そんな人達へと自身の敬意と音楽を伝えるため、彼はこうも語っていました。

「普通の生活をして、普通のひとの目線で、普通の気持ちじゃないと普通のひとに届かないって思うんですよね。」

“洗濯物干すのもヒップホップ”彼は高らかに歌います。「ヒップホップはこうあるべきだ」というくだらない過去のイメージの枠を軽々と飛び越え、彼は“普通”のことを、“最も大切なこと”を歌い続けるのです

日本のヒップホップも今ここまできた。私は彼の曲を聞くたび、そう思います。

では、今回はこのへんで。

関連記事【Letter by ZORN】はこちら



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4 Comments

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本当に毎回記事を読んでて思うんですが、最近のバトル事情から過去のクラシックといわれる音源に至るまで造詣が深いですよね。例えば、その音源にまつわる裏話や小ネタみたいなこともたくさん知ってられるじゃないですか?どこでいつも勉強というか、情報を仕入れているんですか?

2015/09/20 (Sun) 18:50 | EDIT | REPLY |   

Pto6  

Re: タイトルなし

> 本当に毎回記事を読んでて思うんですが、最近のバトル事情から過去のクラシックといわれる音源に至るまで造詣が深いですよね。例えば、その音源にまつわる裏話や小ネタみたいなこともたくさん知ってられるじゃないですか?どこでいつも勉強というか、情報を仕入れているんですか?

コメントありがとうございます。
お褒めの言葉ありがとうございます。でも、私なんてまだまだですよ^^;いつもTwitterで最新情報をチェックしたり、HIPHOP関連の書籍を読んだり、アーティストのインタビュー記事を読んだり、皆さんと同じようにただ好きでやっているだけですよ。ただ、このブログを書くようになってからは、以前より少し意識的に広く、深く色々な情報を見るようには心がけるようにしました。いい加減なことを書いたら、アーティストに申し訳ないですからね^^

ちなみに、今回の記事に書いた、ZONEの生い立ちや、昔のインタビューについては、書籍【ヒップホップの詩人たち】にあった言葉を引用させていただいています。とても印象的な言葉がたくさんあって、アーティストの色んな側面が見られて、とてもおもしろいですよ。興味があれば是非読んでみてください^^

2015/09/20 (Sun) 21:35 | EDIT | REPLY |   

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・・ZONEのつづり間違えてますよ。

2015/09/23 (Wed) 20:06 | EDIT | REPLY |   

Pto6  

Re: タイトルなし

> ・・ZONEのつづり間違えてますよ。

!!!!!!!

ご指摘ありがとうございます。。本当に大変失礼なことをしてしまいました。。。
すぐに修正させていただきました。わざわざ教えて下さってありがとうございます!!

2015/09/23 (Wed) 20:40 | EDIT | REPLY |   

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