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日本の名盤・基本の定番㉑(導-みちしるべ by 漢 a.k.a. GAMI)

どうもPto6(ぴーとろっく)です。

今回は、日本のクラシック作品のひとつ<漢 a.k.a. GAMI>のファーストアルバム【導-みちしるべ】について書きたいと思います。既に様々なところで語り尽くされてきた本作ですが、本ブログでもやはり一度は触れておきたい作品なので改めてご紹介させていただきます。

それではいってみましょう。

【導-みちしるべ】
みちしるべ

<収録曲>
01. 陰と陽(INTRO)
02. 漢流の極論
03. ネタ披露
04. 毒立毒歩 MSW MIX feat.DEV LARGE
05. 余韻
06. 巡回 feat..MSC
07. Take candy from a baby
08. 需要と供給 feat..YOUTH
09. 旋風 新宿路団
10. 覆水盆に返らず 新宿路団 feat. VAL
11. スクラッチ狂
12. 紫煙 feat..MAKI the MAGIC
13. 成るべくして成る漢の考え
14. 破壊と再生 feat.RUMI,KEMUI
15. 一所懸命
16. 無法者(OUTRO)

ヒップホップ史における最高傑作とも名高い<Nas>のファーストアルバム【Illmatic】。ヒップホップ好きなら誰でも知っているその有名なジャケットを大胆にもサンプリングしてみせた本作は、そのジャケットに恥じぬだけの確かなクオリティと、日本のヒップホップを新たなステージへと“導”く比類なき力をもった作品となっています。

インディーズながらに1万枚以上のセールスを記録したといわれるこの作品は、その後の漢やMSCの知名度と評価を高めると共に、リアル至上主義の「新宿スタイル」を日本全土に広く知らしめるきっかけをもたらす作品になりました。

私はこの作品が大好きなのですが、実はこのアルバムを最後まで聴き通せるのは年間を通じても数える程しかありません。それは何もこのアルバムにケチをつけている訳ではなく、この作品に向き合う為に必要なある一定量以上の覚悟とパワーが、それくらいの頻度でしか私に備わらないことに起因しています。私にとってこの作品は、それだけ刺激の強い代物なのです。

しかし、それだけ聴くのに決心を要する作品にも関わらず、年に数回は必ずこのアルバムを無性に聴きたくなる時がきます。それはまるで、何かの効果が切れた中毒者がおずおずと売人の元へと“導”かれる姿を私に想起させます。そして一度聴きだすと、食傷気味になるまでどっぷりとこの世界観にはまりこみ、他の作品が聴けないような時期がしばらく続くことになるのです。

漢はこの作品を作り始めた時から完成のイメージを持っていたと著書【ヒップホップ・ドリーム】の中で語っています。ストリート・ビジネスを題材にしたハスリング・ラップ、ギャングスタ・ラップは、その当時既に日本シーンにおいても浸透しつつありましたが、そのほとんどが“買い手”の立場で語られているものに過ぎませんでした。そこに目をつけた漢は、自身のストリート・ビジネスにおける豊富な経験を活かし、“売り手”の立場から語る、よりシリアスな“日本流ハスリング・ラップ”の確立を本作【導-みちしるべ】で試みるのです。

本作を聴き通すのにあたって、私のような“ストリート”未経験の一般人が相当の覚悟とパワーを要するということ。それは、それだけ鮮明にダーティな裏社会が描かれていることの何よりの証明ではないでしょうか。そして、それほどまでにタフな作品にも関わらず、定期的に手に取り繰り返し聴きたくなってしまうのは、それだけ漢の歩くストリートがスリリングでアナーキーな魅力に溢れているということでしょう。漢の説得力ある言葉たちを通じて疑似体験する「自分では決して体験できない世界」。そこで得られる危ない刺激が欲しくて、私は何度もこの作品に手を伸ばすのです。

では、ここでアルバムの中から数曲をご紹介していきましょう。

【漢流の極論】


“俺は媚びでも恨みでも笑顔で買い取る便利屋”

漢は自身のラップにふたつのルールを設けていると語っています。ひとつ目は“できるだけ会話に近い言葉でラップすること”。ふたつ目は“自分の身の周りのことや生活についてラップすること”。これらふたつのルールを突き詰めていくと、漢がいつも口にする“リアル”という言葉に集約されることに気づきます。

高校生だった漢が、ラップを始めてすぐに気がついた日本ヒップホップシーンに漂う「嘘臭さ」。それに対するアンチテーゼを掲げるために自身に課したそのふたつのルールは、漢が作るどの楽曲においても現在に至るまで踏襲されています。そんな“漢流”の生き様が詰まったこの楽曲は、彼のファーストアルバムの冒頭を飾るに相応しい、まさに“名刺代わりの一曲”だと思います。

不穏なループがダーティな緊張感を漲らせるトラック。怒涛のように吐き出されるどこまでも“リアル”なリリック。漢の世界観を見事に描写した見応えのあるMV。この楽曲はどこをとっても日本ヒップホップにおける“ひとつの完成系”を提示しているような印象を受けます。彼がこの楽曲で示した“ストリート”と“リアル”の魅力的なまでの定義は、この後の日本ヒップホップ界に多くの影響を与えたことでしょう。

しゃべるかの如くナチュラルに言葉を吐き出す漢のフロー。言葉を自然に聴き取ることができ得る最大の文字数を小節に詰め込むことで生まれる彼の独特なリズムは、聴けば聴くほど病みつきになります。

そしてその自然体のフローで語られる日本社会の裏側。漢にとってそれは日常的な“現実”に過ぎませんが、私たち一般人にとっては知る由もないあまりに“非現実的”な世界です。そのような世界が当たり前のようにあまりにも淡々と語られていく為、私の頭は軽い混乱をきたしてしまいます。そして、混乱の中いつの間にかその世界に入り込むと、その強烈な刺激によって身体中が高揚感に満ちていくのです。

ちなみに、私は初めて彼のラップを聴いたとき、彼のいかつい風貌から想像していたラップと、実際のラップとのギャップの大きさに驚いた記憶があります。所謂ハードコアな見た目をした彼ですが、その実態は繊細さとシニカルな感覚を持ち合わせた、ストリートを歩くリリシストです。彼の言葉で語られる彼のストリートは、何度繰り返し歩いても興趣が尽きることがありません。

【紫煙 feat. MAKI the MAGIC】


“善と悪 全部吐く 承知の上での生活 テンポ速くサンプラーよりも叩く電卓”

漢の非凡なリリックに焦点が集まりつい忘れがちになるのが、このアルバムにおけるトラック群の秀逸さについてです。アルバムを通して統一した空気感を保ちながらも、バラエティに富んだ珠玉のトラック群は、本作を“音楽作品”としてのレベルを高めると共に、リスナーをアルバムの最後まで牽引する大きな役を担っています。

そんなトラック群の中でも一際大きな輝きを放つのが、故<MAKI the MAGIC>によるこの【紫煙】のトラックです。極上のネタ使いが際立つ本楽曲は、日本が誇るサンプリングトラックの代表格ともいえる作品だと思います。そして、このトラックを支持する者は今でも後を絶たず、現在ではMCバトルにおけるバトルビートとしても高い人気を誇っています。

楽曲の根幹を成すネタは、テキサス出身のSax奏者<David Newman>【Symphonette】です。印象的なフルートのメロディと、力強いベース音がなんとも心地よいJAZZ-FUNKミュージックですね。原曲の素晴らしさも然ることながら、これほど優雅な楽曲から、あれだけハードなHIPHOP楽曲をつくれるということに驚きを覚えてしまします。HIPHOPにおけるサンプリングの面白さを再確認させてくれますね。

【Symphonette by David Newman】


また、このトラックのサンプリングについては、JAZZトランペッター<Donald Byrd>の楽曲【Places & Spaces】の大ネタを、イントロに添えている点にとても芸の細かさを感じます。私が敬愛するトラックメイカー<Pete Rock>【All The Places】という楽曲でこのネタを用いています。日本とアメリカの大好きな二つの楽曲の間に、そのような嬉しい共通点を見つけられるのはHIPHOPならではの楽しみでしょう。サンプリング文化万歳です。

【Places & Spaces by Donald Byrd】


【All The Places by Pete Rock & C.L. Smooth】


今回紹介した2曲以外にもこのアルバムには語るべき楽曲が多く存在します。故<DEV LARGE>との楽曲【毒立毒歩】は言うまでもなく素晴らしいですし、漢を語る上では欠かせない<MSC>メンバーとの楽曲ももちろん収録されています。更には古くから現場でしのぎを削りあった盟友<RUMI>との楽曲等についても語りだしたら枚挙に暇がないでしょう。とにかくアルバム中に挟まれるSKIT曲に至るまで、どれも素晴らしい楽曲ばかりです。

そして、<DABO>との長いBEEFに終止符を打った楽曲【Take candy from a baby】についても触れておく必要があるでしょう。“飴玉のように舐めてる 舐めるのもダルくなると噛み砕く当たり前のこと”という表現が見事なこの痛烈なディスソングは、「言いたいことは全て言い切った」と漢が語るほど内容の詰まったものになっています(しかし結局は、DABOがこの楽曲を聴く直前に二人は和解したようです)。このDABOとのBEEFについては、漢の著書【ヒップホップドリーム】において約7ページにも渡り詳細に語られています。興味がある方はそちらを是非チェックしてみて下さい。

今回、改めて本作と向き合い、魅力を伝えようとしてきましたが、結局のところ私は“MC漢”そのものに惹かれているということに気付かされました。ユーモア混じりの機知に富んだリリック。そこからにじみ出るMC漢の人柄こそが、彼のもつ最大の魅力ではないだろうかと私は思います。“不器用な生き方を器用にサバイブする”。そんな矛盾を孕んだ彼の人間性に、私は魅力を感じて止みません。

私の好きな海外文学作家の言葉に「他人と違う何かを語りたければ、他人と違った言葉で語れ」というのがあります。漢はその言葉を体現できている数少ないラッパーの一人ではないでしょうか。私は、彼の作品を聴く度にそんなことを考えてしまいます。

では、今回はこのへんで。





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2 Comments

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この8ビート延長しても平常心は保とうぜ♪

ゴジラも溶かすオキシジェンデストロイヤー、Rest In Peace 時既に遅し🎶

2015/11/08 (Sun) 12:47 | EDIT | REPLY |   

Pto6  

Re: タイトルなし

> この8ビート延長しても平常心は保とうぜ♪
> ゴジラも溶かすオキシジェンデストロイヤー、Rest In Peace 時既に遅し🎶

コメントありがとうございます。
【紫煙】はUMB2013の準決勝JAG-ME vs R-指定 (延長)で使われたのも記憶に新しいですよね^^ビートの良さも相まって、あれもいい試合でしたね!

2015/11/08 (Sun) 17:32 | EDIT | REPLY |   

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