HIPHOPの必須トーク

日本語ラップ・MCバトルの“今”を語るブログ

新作音源に小さく貢献⑨(LIFE IS ONE TIME, TODAY IS A GOOD DAY. by TKda黒ぶち)

どうもPto6(ぴーとろっく)です。

今回は、昨年末に発売された作品、<TKda黒ぶち>の1stアルバム【LIFE IS ONE TIME, TODAY IS A GOOD DAY.】をご紹介したいと思います。MCバトルシーンにおいて高い人気と実力を誇り、先日のフリースタイルダンジョンでも持ち前の“瞬間の美しさ”を見せつけてくれたTKda黒ぶち。そんな彼が“瞬間に消えない言葉を残した”と語る本作について、その魅力に迫りたいと思います。

それでは、いってみましょう。

【LIFE IS ONE TIME, TODAY IS A GOOD DAY.】
LIFE IS ONE TIME, TODAY IS A GOOD DAY.

<収録曲>
1. LIFE IS ONE TIME
2. 青い炎
3. HOPE
4. as it is
5. Mr.MUSIC
6. Everything's gonna be alright
7. it's your world
8. 種
9. 砂上の楼閣にて
10. TODAY IS A GOOD DAY(count blessing)

一日の業を終えた帰り道。イヤホンを耳に付け、無意識の内にこのアルバムの再生ボタンに指を伸ばしていることに気付きます。それは、このアルバムの一曲目【LIFE IS ONE TIME】の描く世界が、主人公のいつもと変わらない仕事終わりの帰路の描写から始まることとも、少なからず関係はあるでしょう。しかし、きっとそのような単純な理由だけではなく、一日を終え疲労感に包まれている私の身体が、このアルバムに含まれている何かしらの成分を自然に欲しているからなのではないかと考えてしまいます。

仕事に追われる日常生活の合間、限られた時間でリリックを書き、ラップを乗せ、それを積み重ね5年の歳月を経て完成させられた本作。そんな作品からは、制作時間の大半を占めたであろう“仕事終わり”特有の感情が多く反映されているように感じます。それは、仕事を終えたことへの開放感や疲労感であったり、ふと頭を過ってしまう人生への虚無感や脱力感であったりし、更には、その日やっと与えられた“自分が好きに使える時間”に対する期待感や幸福感であったりもします。そのような感情が自然とにじみ出たリリックが音に乗ることで、聴く者の心にじんわりと染みこんでくるのです。私が帰路、思わずこの作品を欲してしまうのは、きっとそのような要素を身体が本能的に求めているからではないかと思っています。

TKda黒ぶちはこのアルバムについて、“自分(27歳)と同年代で、自分と同じように普通の生活を送る全ての人に聴いて欲しい”と語っていました。しかし、この作品がもつ上記のような要素は、何も同年代の人にだけに染み入るものではありません。仕事人、学生、男性、女性、関係なく、忙しい日常生活と悪戦苦闘する全ての人に響き得る、そんな作品だと私は思います。

私はこの作品を何度も繰り返し聴いている内に、「TKのことに興味がありこの作品を買った人で、この作品を買ったことを後悔している人は誰一人としていないのではないか」という感情をふと抱いてしまいました。そんな風に思わず感じてしまうくらい、この作品には、彼に求める全ての要素が“期待通り”に詰め込まれており、それが“期待以上”の形で仕上げられているのです。フルアルバムとしての形式を取りうる必要最小限の曲数にまで敢えて厳選し、だからこそ込めたいメッセージと描きたい世界観を、出来る限り濃縮させ色濃く反映させた珠玉の10曲たち。そんな一切の無駄を排除した濃度の濃い作品を作り上げたところからも、実に彼らしい気概と拘りを感じてしまいます。

また、この作品は捉え方に拠っては一種のコンセプト・アルバムとして聴くこともできると思います。タイトルがその全てを表すように、“人生は一度きりである”という誰もが認識しているその普遍の定理について、シニカルに、繊細に、そしてユーモアも交えながら、彼はあらゆる角度からそのことについて語ろうとしています。それは基本的にはポジティブに、しかし時には悲観的に、そして、時にどこか投げやりにすらなりながら。それは、抱えている空虚な感情に理由をつける為でもあり、目の前に儚く漂う可能性に懸命にしがみつく為でもあり、そして、“自分らしさ”とは一体なんなのかを模索する為でもあるように思います。

これらを若者特有の“モラトリアム”だと笑うことは容易いかもしれません。しかし、私は頑としてこれを“哲学”だと言わせてもらいます。良くも悪くも、毎日陽は昇り、そして沈んでいきます。それは、自分が悩んでいてもいなくても、世界からしたら大勢には影響なく日常は過ぎ去っていくのです。それでも、自分は音楽をやる、いや、だからこそ音楽をやりたいんだ。そんなTKda黒ぶちの熱く迸る想いに、私は心を揺さぶられてしまうのです。そして、彼のそんな姿をバイタリティ醸成剤とし、自分もこんな一度きりの“ろくでもない、素晴らしい世界”を懸命に生きていこうと、改めて襟を正される気持ちになるのです。

“人生は一度きり”。しかし、彼は自身の中で燻ぶる“青い炎”を火種に、“希望”を持ち続け、“ありのまま”の自身を歌い続けるのです。時に、“音楽の神”に嘆きたくなることもありますが、それでも“すべてはうまくいく”と言い放ち、“あなたはどんな世界で生きたいか”と、リスナーに語りかけるのです。それは、聴く者の心にある“種”を落とします。その種は“砂上の楼閣”とまで云われる人生を生き抜く為のささやかなヒントとなることでしょう。この作品を聴き終わった時、あなたはきっと“今日はとても良い日だ”と、改めて一度きりの人生に感謝したくなる、そんな感情が湧き上がると思います。そして、一度きりといわず、もう一度、もう一度とこのアルバムを聴きたくなる衝動に駆られるはずです。

本作に少しでも興味を持たれている方は、MVが公開されているこの2曲をとりあえず聴いてみることをお薦めします。どちらも、このアルバムで語られている世界の一端を感じ取ることのできる、素晴らしいMVです。

 【HOPE】


"LIFE"これに限っちゃ正しい答えは無い
それ故に自分の中で答えを持ってたい
俺もあなたも、誰しもが探す機会を持ってる
多分、それは言葉に出来るモノじゃないと思ってる
生きてる間に見つかるかどうかすら解らないが別にそれで良い
虚しさに包まれる時代の中、答えを探す事、自体が俺にとっちゃ一つの希望
二度と無い今日、ready go!!


【種】


実りある人生を送るために 悲しみはあれど喜びを讃えるために
この種に名を付けるなら希望 咲いた花に名を付けるなら理想
生きるために水をやり続けていこう 今日1日尊く大切にしよう
来たる春を想い、寒い冬を越えよう 未来を込めて、期待を添えて種を蒔こう


TKda黒ぶちのリリックを支えるのは、普遍的な心地よさを纏った素晴らしいトラックたちです。特に、上記の【HOPE】をはじめ、本アルバムで10曲中6曲のトラックメイクを担当しているKSKB lab.所属<J-TARO>のビートはどれも秀逸です。bluesyな哀愁と、jazzyな心地よさを、絶妙のサンプリングで引き立たて、それでいて尚、普段HIPHOPを聴かない層を含めた万人にすんなりと受け入れられる普遍性をもたせたトラックは、まさにこのアルバムコンセプトにマッチしています。自身の好きなHIPHOP的音を全て詰め込んだと語るTKda黒ぶちのセンスにも強いシンパシーを感じてしまいました。

MVが作られていない楽曲たちにおいても、リリック、トラック共に、どれも素晴らしいものばかりです。どの曲からも丁寧に、丹精込めてつくられたという深い愛情を感じることができます。MCバトルにおいて彼が見せる“魂の会話”を、この作品で彼は自分自身と行っています。また、あらゆるビートを乗りこなし、早口ながらも全てを聴き取らせる彼のラップスキルと、魅力的な声は相も変わらず健在で、バトルとはまた別の新たな魅力を私たちに提示してくれています。

例えば、アルバム最後を飾る楽曲【TODAY IS A GOOD DAY】は、こんなリリックから始まります。

“LIFEは俺にとっちゃBitchじゃなくてQUEEN”

これはもちろん、HIPHOPにおいて最も有名なクラシック作品<NAS>の【Illmatic】に収録されている楽曲【Life's A Bitch】を意識したリリックであることは間違いないでしょう。原曲でNASは人生を“Bitch”(ここでは女性を侮蔑する言葉としてではなく“やっかいな”、“くだらない”というニュアンスで使われている)と称していましたが、TKda黒ぶちはそれを女性を称える最上級の言葉“QUEEN”であると語っています。そして、“いざ面と向かうと、うまく言葉がでなくて”とリリックを続けるのです。

HIPHOPにおける“歴史的名リリックに対する独自のアンサー”としても成立させながら、“人生と向き合うこと、表現することの難しさ”も併せて表現した、なんとも秀逸なラインだと思います。このように、HIPHOPを愛するTKda黒ぶちだからこそ、人生を真剣に見つめるTKda黒ぶちだからこそ、唄うことができるリリックが、この作品には溢れているのです。

この作品に少しでも興味を持った方は、是非手にとって聴いてもらいたいと思います。そして、繰り返し聴くことで、彼が紡ぎだしたメッセージを自分なりに咀嚼し、そこから人生を生き抜くためのヒントと糧を得てくれることを心から願っています。

では、今回はこのへんで。



関連記事

4 Comments

-  

トラックならキエるマキュウ「マネーメリーゴーランド」
リリックなら02「STAY TRUE」を聞いてみてほしいです

まとまり過ぎるアルバムは単調で飽きてしまいバラバラすぎると聞き疲れてしまいます。キエるのマネーメリーゴーランドはバラエティに富んでてまとまってる稀有なアルバムだと思います

2016/01/21 (Thu) 02:56 | EDIT | REPLY |   

Pto6  

Re: タイトルなし

> トラックならキエるマキュウ「マネーメリーゴーランド」
> リリックなら02「STAY TRUE」を聞いてみてほしいです
> まとまり過ぎるアルバムは単調で飽きてしまいバラバラすぎると聞き疲れてしまいます。キエるのマネーメリーゴーランドはバラエティに富んでてまとまってる稀有なアルバムだと思います

コメントありがとうございます。
それらのアルバムはどちらも聴いたことありませんでした!是非聴いてみたいと思います。ご紹介ありがとうございます^^
“バラエティに富んでいてまとまっているアルバム”なんておそらく私も大好きになると思います。聴くのが非常に楽しみです。
またお薦め作等あれば是非教えてください!ありがとうございました^^

2016/01/24 (Sun) 07:41 | EDIT | REPLY |   

hato  

少し前の記事へのコメントすみません。

はじめまして、hatoと申します。
Pto6さんのこの記事が、TKda黒ぶちさんのこのアルバムを聴くきっかけになりました。
とても素晴らしいアルバムで、この記事を読んで良かったと思いました。
また、聴いて感じたり思ったりしたことが、この記事に書かれた通りで、おおすごいと感動しました!

因みにの話で、どの曲も素晴らしいですが、僕は中でも《MR. MUSIC》が好きです。
音楽を女性にする曲は多いですが、男性として扱う曲は少し珍しいですよね。
僕も音楽の道を目指しているので、彼の音楽への独白に、感じ入るものがありました。

長々すみません!
それでは、これからもブログ楽しみにしています!

2016/02/29 (Mon) 21:48 | EDIT | REPLY |   

Pto6  

Re: タイトルなし

> 少し前の記事へのコメントすみません。
> はじめまして、hatoと申します。
> Pto6さんのこの記事が、TKda黒ぶちさんのこのアルバムを聴くきっかけになりました。
> とても素晴らしいアルバムで、この記事を読んで良かったと思いました。
> また、聴いて感じたり思ったりしたことが、この記事に書かれた通りで、おおすごいと感動しました!
> 因みにの話で、どの曲も素晴らしいですが、僕は中でも《MR. MUSIC》が好きです。
> 音楽を女性にする曲は多いですが、男性として扱う曲は少し珍しいですよね。
> 僕も音楽の道を目指しているので、彼の音楽への独白に、感じ入るものがありました。
> 長々すみません!
> それでは、これからもブログ楽しみにしています!

hatoさん
コメントありがとうございます。hatoさんと作品との出会いのキッカケになれたことを、とてもうれしく思います^^
《MR. MUSIC》いいですよね。たしかに言われてみれば男性として扱うのが、この曲の個性的な点のひとつかもしれません!リリックとラップにもTKの熱が乗って、本当に心震わされます。トラックもカッコイイし、私も大好きな曲です。

hatoさんも音楽の道を目指しているんですね!是非頑張ってください^^音楽シーンがあるのはアーティスト様たちの作品があってこそ。是非、良い作品をこれからも作っていただきたいと思っています^^応援させてもらいます!

このたびはブログ書き冥利に尽きる、嬉しいコメント本当にありがとうございました。
これからも、よろしくおねがいします^^

2016/03/05 (Sat) 08:22 | EDIT | REPLY |   

Leave a comment

ブログパーツ